妊娠中の葉酸摂取で出生後の川崎病発症リスクが3割低減―横浜市大などの研究チーム分析
川崎病は乳幼児の血管に炎症を起こす原因不明の疾患であり、後遺症の冠動脈障害による心筋梗塞や突然死の可能性もある。現在、100人に1人以上の乳幼児が川崎病に罹患(りかん)する。妊娠中の葉酸サプリメントの服用により、血液中の葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは、生後12カ月までの川崎病の発症リスクが約30%低くなるとする分析結果を、エコチル調査神奈川ユニットセンター(横浜市立大学小児科 福田清香医師、伊藤秀一主任教授/兼センター長)の研究チームが2024年1月9日に発表した。成果は米国医師会の医学誌「JAMA Network Open」に2023年12月28日付で掲載された。これまでのさまざまな研究によって、妊婦の葉酸摂取が神経管閉鎖障害を予防する効果が証明されていた。今回の研究により、葉酸摂取が川崎病のリスク低減につながる新たな可能性が示された。研究チームは今後、解析年齢を5歳まで拡大し、出生後の影響も含め川崎病の発症に関連する因子を探求する。また、母親の妊娠中の血液中葉酸濃度の高さが、生まれた子どもが何歳になるまで川崎病の発症を減らす可能性があるかについても解析を進める予定という。
◇血液中葉酸濃度高めるサプリ―食事は影響せず
環境省が2010年度から開始した「子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」)の一環として分析された。エコチル調査に登録された妊婦から生まれた約10万人の子どものうち、母親の妊娠中の葉酸摂取に関する情報が得られていないなどで対象外になったケースを除いた8万7702人を対象に調査。うち336人が1歳までに川崎病を発症した。 対象の母親を妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取頻度によって ・毎日 ・週1回以上 ・月1回以上 ・摂取なし ――の4群に分け、さらに妊娠中の母親の血液中葉酸濃度の分布を検討した。子どもの背景因子のばらつきを「プロペンシティスコア解析」という手法でバイアス補正して解析した結果、妊娠中期から後期の血液中葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは、生後12カ月までの川崎病発症頻度が約30%低かった。また、妊娠中期から後期にかけて葉酸サプリメントの摂取頻度が週1回以上の母親から生まれた子どもでも同様の傾向があった一方で、母親の食事からの葉酸摂取量による子どもへの影響はみられなかった。このことから、頻回な葉酸サプリメントの摂取が血液中葉酸濃度を高めていることが分かったとしている。また、妊娠初期の葉酸サプリメント摂取も、有意ではないが同様に川崎病の発症が減少する傾向であることも分かったという。 伊藤主任教授は「葉酸の新たな効能の可能性は、妊娠中の葉酸摂取を推進するうえで貴重な材料と考えます。今回の調査でも妊婦さんの半分しか葉酸サプリメントを服用しておらず、海外と比較すると大きく遅れています。川崎病のリスクを減らすという今回の結果が、葉酸摂取促進の一助になることを期待します」とコメントした。