【ジャパンC】オーギュストロダン 背中を唯一知る日本人「日本の馬場は良さ生かせる」
秋G1シリーズの水曜企画「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけ本音に迫る。国内外の強豪が集う「第44回ジャパンC」は東京本社の高木翔平が担当。エイダン・オブライエン厩舎で調教助手として働き、オーギュストロダンとともに来日中の境優真(ゆうしん)さん(23)を直撃した。“オーギュストロダンに騎乗経験のある唯一の日本人”に本紙独占、たっぷり話を聞いた。 オーギュストロダンは東京競馬場で調整、名門オブライエン厩舎の精鋭スタッフからケアを受ける。その中に日本人の姿があった。火曜朝、境優真調教助手は同馬の調教が映るモニターを真剣な表情で録画していた。日本は故郷、オーギュストロダンの父ディープインパクトの母国でもある。「(アイルランドにいる時と)様子は変わらないし、何ならこっちの環境を楽しんでいる感じ。お父さんの生まれた国だって分かっているんですかね」と笑った。 境助手はオブライエン厩舎で働く唯一の日本人スタッフ。この遠征で担う役割は大きい。「自分が日本人ということもあり、エイダン(オブライエン)にはいろいろと聞かれることがあります。“日本ではどんなトレーニングをしているのか”とか“日本の種牡馬の特徴は?”とか。エイダンが日本に来るのも初めてということですし、今回の挑戦はまた特別な感じがしています」と力を込めた。 境助手は01年福岡県生まれ。親族が競馬好きだった影響で騎手を志したが、背が高かったこともあり断念。馬への思いは諦め切れない。中学卒業後にエイシンステーブルへ就職。その後は国内外の牧場を渡り歩き、22年10月からオブライエン師の元へ。G1通算400勝超の超名門で多くのことを学ぶ。「全員が切磋琢磨(せっさたくま)し、向上心の塊のような厩舎です。どうしたら勝てるか、馬が良くなるかということに貪欲な人が集まっている」と明かす。 300頭近い管理馬がいて、毎朝の調教風景は圧巻。オブライエン師はつぶさに人馬の様子を観察、相性も考えて担当馬を決めていくという。「ライダーだけで60人、他のスタッフを含めると150人くらいの従業員がいます。エイダンは毎朝名前を呼んで声をかけてくれる。ある時は表情を見て“ユーシン、どうした?調子が悪いか?”って心配してくれることも。若い自分にも1頭ごとに馬への意見を聞いてくれます。本当に尊敬できる方です」。世界一の調教師に評価され、1日のBCジュベナイルフィリーズターフを制したレイクヴィクトリアは担当馬となった。 普段のオーギュストロダンの調教をつけるのは女性ライダーのレイチェル。境助手は彼女が乗れないタイミングで騎乗経験を持つ。「他のディープインパクト産駒に騎乗したこともありましたし、過去に日本で乗った馬たちと似ているなと感じました。ヨーロッパの馬より少し線が細くて軽い走りをする。それでヨーロッパのG1を勝つんだから相当な能力があると思う」。日本馬の特徴も知っているからこそ、その言葉には重みがある。「昨年のような時計が速いBC(ターフ)を勝っているし、日本の馬場は面白いんじゃないかなと思います。今回はこの馬の良さを存分に生かせる条件ではないでしょうか」。今年のブリーダーズカップ前には武豊と対面。ディープの主戦を務めた憧れの騎手と、オーギュストロダンの話ができた。 「豊さんには“乗ったことがあるのがうらやましい”と言っていただきました(笑い)。もちろん警戒するのは日本の総大将ドウデュースですし、他にもシンエンペラーなど強い馬がゴロゴロいます。その中で最高の結果を出すことができれば」。“ディープインパクト産駒最後の大物”に騎乗した唯一の日本人。特別な思いを胸に、勝負の時を待っている。 【取材後記】23歳という若さで世界中の牧場、厩舎で経験を積んできた境助手。取材前はどこかガツガツした人を想像していたが、「優真さん」という名前通り、丁寧で優しさが伝わる人柄だった。これからについての話を振ると「まだ若いので“これだ!”とは決めていませんが、調教師という仕事は選択肢の1つとして考えています。今回、遠征の一員として加えていただいたことは、大きな財産になると思います」と教えてくれた。欧州で数々の一流馬たちと接し、世界一の調教師の仕事ぶりを間近で見られる日々。どんな道を選んでも今の環境での経験が生かされるはずだ。「いつか日本で調教師になってくださいね」とリクエストすると、「それがかなえば、たくさん取材に答えますね!」と爽やかに返してくれた。 (高木 翔平)