世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか?(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
■予算は当初の1000万円オーバー 購入判断の基準となる三つのポイントとは?
夫:自分でも高いのは分かっているんですけど、今後の仕事とか色々考えるとこれくらいになっちゃうという感じです。リモートワークを考えると広めが良くて、その分高くなってます。 中嶋:湾岸のタワマンで90平米以上でこの価格だと、築年数は結構経ってますよね? 妻:2007年なので築16年?もう17年? 新築だと1億何千万とかさすがに手が出ない水準で。私も夫も週2日はリモートなので自宅に仕事のスペースが必要で、予算を抑えて狭くなるなら買う意味が無いという部分は意見が一致してます。 中嶋:なるほど。新しさより広さを取った感じですね。坪単価で……338万円くらい。築年数を考えると妥当なところですかね。 夫:広さと、あとは通勤も二人ともちょうど良くて駅から徒歩10分以内という条件も満たしてるので、半年くらい探してやっと良いマンションが見つかったんですけど。あとは予算です。 中嶋:価格的には無理ではないけど楽々というわけでも無い……もちろん皆さんそういうグレーゾーンだからご相談に来られるんですが。 妻:もう1000万くらい下で考えていたんですけど見つからなかったです。 夫:湾岸のタワマン、やっぱり大人気ですね。 中嶋:そうですね。コロナ前と比べて相場が全然違うので、もう仕方ないという状況です。今は都心部だと億ションも当たり前ですから。かといって待っていたら安くなる訳でもありませんので。 ウチの相談の方針は「損得よりリスクと資金繰り」です。なのでその点はご安心下さい。最初にお話しすることは家を買う前に悩むべき三つのポイント、それが「買えるか? 買っても大丈夫か? 買うべきか?」です。 ーー筆者が住宅購入のアドバイスで最初に話すことはこの三つだ。まずは「買えるか?」これは狭い意味で考えれば「ローンが通るか?」という意味になる。ローンを利用せずに家を買う人はほとんどいないからだ。ローンが通るかどうかが買えるかどうかとイコールになる。 ローンの仲介も紹介も行わない筆者が審査についてアドバイスできることはほとんどない。ローン審査は金融機関が行うからだ。あえてアドバイスをするなら各種ローンの延滞で信用情報に傷が付く、いわゆるブラックリストに載っている状況だと借り入れは困難となる。これは信用情報機関で簡単に確認が出来る。 大抵の人は相談に来る時点で、そして買おうかどうか悩んでる時点で、ローンに通ることも買えることも確定している。借り入れ可能な上限額は年収の7倍~8倍程度という目安はあるが、ローンに通るかどうかが最大の悩みならばわざわざお金を払って相談するまでもなく銀行の無料相談で十分だ。 中嶋:二つ目の「買っても大丈夫か?」これは先ほどお話ししたリスクと資金繰り、つまり「支払いがちゃんとできるか?」という部分です。 ーー個人でも企業でも破綻をするのは赤字の時ではなく支払いが止まった時だ。したがって支払いが出来ない状況を避けることが最優先となる。これを資金繰りと言う。 借りられる額と返せる額は違う、と格言めいた事を言うFPは多いが、これは正しくない。銀行もバカではないので返せない額は貸さない。実際、住宅ローンの破綻する確率、デフォルト率は極めて低い。つまり銀行視点で見れば住宅ローンの貸し出しはリスクが低い。だから銀行はこれだけ低い金利で貸してくれる、という説明になる。 しかし住宅ローンで重要なことは狭い意味で返済が出来るかどうかではない。爪に火を灯すような生活を送りながら返済をするのなら家を買う意味はないからだ。希望のライフプランを実現しながら支払いが出来るか? あくまでこの視点で考える必要がある。 中嶋:買っても大丈夫か? つまり支払いがちゃんと出来るか? これは毎月の返済額は月収の2割までとかそういうエビデンスの無い話ではなく、家を買うことで家計の収支がどう変化するか計算して、その数字で購入の可否を判断をしていただく形になります。 中嶋:具体的には賃貸の費用と比べて返済額はどれくらい多いか?という部分です。もちろん、考慮すべき数字は他にもあります。なので三つ目の「買うべきか?」実はこれが一番重要という話になります。ライフプランとの整合性、と言うと固い表現になりますけど、要するに「楽しい生活を送れるか?」です。 ーー返済に加えて趣味や教育費、老後資金なども総合的に考えて、楽しい生活が送れないのであれば家を買っても意味がない。ライフプランや人生設計と言うと分かったような分からないような表現になるが、買うべきかどうかは家を買うことが「楽しい生活」につながるかどうかで判断する必要がある。ここを無視した購入プランは意味がない。