杏・主演「かくしごと」よくぞここまで原作通りに……、からのラストシーンの改変にびっくり! 「映画の続きを原作で」という珍しい関係性をみた
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はラストの改変が印象的だったこの映画だ! 【写真を見る】杏さん、中須翔真 さん、奥田瑛二さん、関根光才監督が登壇 『かくしごと』公開記念舞台挨拶オフショット
■杏・主演! 「かくしごと」(ハピネットファントム・スタジオ・2024)
ラストぎりぎりまで、よくぞここまで原作通りに、大きな脚色をすることなく映画化したもんだなあと感心しながら見ていた。細かい違いやカットされたシーンはあるにせよ、こんなに全編通して「小説そのまま」の映画が作れるもんなんだ、と。それがあなた、ラストですよラスト。そう来たか、ここで来るのか! とのけぞったさ。 原作は北國浩二の『嘘』(PHP文芸文庫)。刊行されたのは13年前の2011年だ。絵本作家の千紗子は一人暮らしの父が認知症になったと報せを受けて、数年ぶりに実家に戻る。父との間には拭い難い確執があったのだが、父は千紗子が娘だということすら忘れているらしい。とにかく早く介護認定を取って施設に入れてしまいたい、と考える千紗子。 ところがある夜、千紗子が友人の久江と飲みに行った帰り、久江が車で子供をはねてしまう。大きなケガはなかったものの記憶を失ったらしいその少年の体には、あきらかな虐待の痕があった。千紗子は少年を守るため、親元に帰すことなく我が子として共に暮らし始める。認知症の父と記憶を失った子ども。奇妙な3世代の生活が始まった──。 というのが原作・映画に共通するあらすじだ。実は千紗子が少年を我が子として育てようとしたのにはもうひとつ彼女自身にまつわる過去があり、序盤からいろいろとほのめかされはするのだけれど、ここには書かないでおこう。 原作の読みどころはなんと言っても、この疑似家族の変化だ。千紗子によって嘘の家族史を教えられた少年は、少しずつ千紗子とその父に馴染んでいく。そして少年が父のことをおじいちゃんと慕い始め、「病気のおじいちゃん」を一生懸命助けて、世話をしようとする。その中で、千紗子の父に対する思いも少しずつ変わり始める。自然の中の暮らし、畑仕事、木彫や粘土細工に没頭する昼下がり、川のせせらぎ──そういった中で育まれる疑似家族のつながりは、多分に箱庭的ではあるけれど、穏やかな希望に満ちているのだ。 だが、それで終わるはずがない。だって千紗子のやっていることは、その動機がどうであれ、未成年者誘拐という犯罪なのだから。三人が絆を深めれば深めるほど、幸せな場面が増えれば増えるほど、読んでいるこちらの不安が増していく。どこかで破綻がくるに違いない。それはいつ、どんな形で訪れるのか。読者はじりじりするような気持ちでページをめくることになる。そしてそれは映画も同じだった。
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