杏・主演「かくしごと」よくぞここまで原作通りに……、からのラストシーンの改変にびっくり! 「映画の続きを原作で」という珍しい関係性をみた
■原作で映画の「続き」を読む
いやもう驚いたね。そこまでが原作通りだったから──本当にびっくりするほど改変の少ない、徹底して原作通りに進んでいたから、そりゃ最後まで原作通りにいくと思うじゃありませんか。でもって原作では、ラスト1行で大きな「嘘」が暴かれるのよ。でもそのラスト1行ってのも文章ならではの効果だから、さああれをどう映像では見せてくれるのかなと思っていたら……。 これ以上は言わないが、もしもあなたが映画を先に見てまだ原作を読んでいないなら。読んで! ぜひ読んで! 原作では少年はあの場でああいう発言はしない。そしてその後どうなったかが描かれているのだ。しかも数年のスパンで! 映画のパンフレットに、ラストの改変について関根光才監督の言葉が載っている。曰く「映画を観た後、文章に触れる人がある種の安らぎというか、ほっとして終われる後日譚にしたいと思ったんです」──続きはwebで、ではなく、続きは小説で、なのだ。そんな映画と原作の関係、ある? これまで私はこのコラムで「映画と原作の違いを比べてみて」と書き続けてきたが、「映画の続きは原作で読んで」と書くのは初めてじゃなかろうか。 そしてまさしくその「続き」は読み応えあるぞ。そこで大活躍するのが久江なのだ。もとはといえば久江が飲酒運転で事故を起こしたことから始まっている。飲酒運転を隠したくて千紗子が警察や救急車を呼ぶのを止めた、それがすべての原因なのだ。それがなんとなくなかったことになっててモヤっている人も多いかもしれないが、大丈夫、原作の久江はそのことを忘れず、千紗子と少年のために奔走するのだから。私の中では佐津川愛美さんが懸命に走り回ってる姿が浮かんできたよ。法的にどうなったかも原作ではクリアされるので安心だ。 映画はある場面で終わっているが、その後の様子も、ぜひこの役者さんたちを思い浮かべながら読んでほしい。いや、少年だけは違うな。彼は高校生になるので、子役の中須翔真さんからは変わっているはず。そこは推しの役者さんを入れてみてもいい。どうせなら久江の息子(これがまたいいキャラなのよ! )にも好きな役者さんを当てはめて読むと楽しいぞ。その間にいろいろ苦労はあっても最終的には幸せな未来が待っているので、どうか存分に「ほっとする後日譚」を味わっていただきたい。 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
新潮社
【関連記事】
- 奥智哉・青木崇高主演「十角館の殺人」なんだこの幸せな映像化は! 映像化不可能と言われたミステリの金字塔を見事にドラマ化 数少ない改変部分も原作ファンへの目配りがすごい
- 福士蒼汰、松本まりか主演「湖の女たち」グロテスクな人間の業を重層的に描いた小説をよくぞまとめた! チャレンジングな役に挑んだ俳優たちと琵琶湖の美しさにゾクゾク
- 杉咲花、志尊淳主演「52ヘルツのクジラたち」顔がグズグズになるくらい泣いた! 原作を完璧に再現した映画版 あえての改変シーンの理由を考察
- 「光る君へ」あのシーンに萌え死んだ! 史実と虚構の重ね合わせにワクワク ドラマをより楽しむために読むべき本とは?
- 草なぎ剛主演「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」社会の問題を全面に出した原作と、家族の物語に重心を移したドラマ 違いはあれど誠実な映像化!