時代とともに変わりゆく高校野球の姿 センバツ大会から新ルール本格導入
昨夏の甲子園では、慶応高(神奈川)が1916年の第2回大会以来、107年ぶり2度目の優勝を果たした。慶応ナインがチームの伝統である『エンジョイ・ベースボール』を聖地で体現し、全国制覇を成し遂げたことで大フィーバーを巻き起こした。そこから約半年後の24年2月9日、日本高等学校野球連盟は高校野球特別規則を一部改正したと発表。3月18日に開幕した第96回選抜高校野球大会と各都道府県の春季大会から適用される。 2024年シーズンから適用される新ルール、大きく分けて下記の3点が前年度と異なる点に当たる。 ・新基準のバットに完全移行 ・「投手の投球姿勢」と 「反則投球の取り扱い」の削除 ・タイムの制限
さらなる打撃技術が求められる低反発バット
まず1点目は新バットへの完全移行である。高野連は2022年2月、新基準の金属製バットを導入すると発表。2022年シーズンから2年間を移行期間とし、今年度より完全導入される。よって、昨年までの規定の金属製バットは使用できなくなる。では、従来の金属製バットと新基準の金属製バットはどのような違いがあるのだろうか。まずは、バットのサイズである。従来のバットは最大径が67mmなのに対し、新基準のバットは64mmと、バットが細くなっている。次に、バットを断面にした際、打球部の金属部分が約3mmから約4mmへと肉厚になった。重量は900グラムと従来と変わりないが、『細く』『厚く』なったことで、トランポリン効果を減衰。反発機能を抑制した、低反発の『飛ばない』バットへと変わるのだ。 移行期間の23年3月、高野連はホームページ内に新基準の金属製バットについての解説動画を公開。「打撃時に投球とバットが衝突する際、約3トンの衝撃が生じると言われています。その衝撃によりバットがへこむ現象をトランポリン効果と呼びます。ボールが打撃によって3トンの力をまともに受けて変形すると、元の状態に復元する際、エネルギーロスが発生して、飛距離が減衰するといわれています。したがって理論上はボールをバットで優しく受け止めて、強く弾き出すと打球の勢いが増すということです。逆に今回の新基準バットは、打球部を細く肉厚にすることでトランポリン効果を減衰させて、反発を低下させるというものです」とトランポリン効果による減衰が違いにあたると説明している。また、効果に関しては「以前、全国大会で事故が発生した映像をもとに分析した結果、打点から投手が打球を受けるまでの距離は15.84mでした。この距離をもとに、打球初速を比較すると、新基準バットでは約3.6%減少していることがわかりました」と解説されている。高野連は新基準の金属製バットの導入目的を「打球による負傷事故防止(主に投手)」、「投手の負担軽減によるケガ防止」の2点としている。低反発のバットが導入されることで、ピッチャーライナーなどでの投手負傷の防止、また打球速度を抑えることで投手の負担が軽減されるなどの効果が見込まれている。 同動画では、2020年からU18日本代表の監督を務め、昨夏の「第31回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」では日本代表を世界一へと導いた明徳義塾高(高知)の馬淵史郎監督が新バットのポイントを解説。「本当の芯じゃなかったらボールは飛ばないと思いますね。以前のバットだったらちょっと芯を外れても、外野の頭を超えるような打球もあったんですけど、やっぱりしっかりした打ち方で芯で捉えないとボールは飛んでいかないと感じています。打球の初速がずいぶん遅いかなと。0コンマ何秒の世界だと思うんですけど、初速の遅さからいえば以前の火の出るようなあたり、当然芯に当たればそういう打球も飛ぶんでしょうけど、確率的には非常に少なくなるんじゃないかなと思っています。ケガも少なくなるんじゃないか」と見解を述べている。 新バットに移行することは、投手の打球事故防止や負担軽減につながると考えられるが、これまでよりも木製バットに近づくことで飛び方や打球速度が変わるなど、打者には大きな影響が出てきそうだ。だが、馬淵監督は「下半身をしっかり鍛えて、下から順番通りに打ってヘッドを返すというような打ち方を学ばないと。ただ振るだけではなくバッティングのメカニズムをしっかり頭に入れて、それに向かって練習していく、今後の野球には繋がる」とした。