気象庁職員が「二足のわらじ」でつむぐ地方史 「初」「面白い」「意義ある」テーマ求めて
札幌市の山本竜也さん(48)は、気象庁で働く傍ら地方史研究者としての顔も併せ持つ。テーマは空襲、ニシン漁、アイスキャンディーなど多岐にわたる。1月に自身の著作や調査方法、地方史を執筆する人々の話をまとめた「地方史のつむぎ方 北海道を中心に」(尚学社)を出版。「誰も調べていなくて、面白くて、社会的意義がある。そんな都合のいいテーマがなさそうに見えて結構ある」と目を輝かせる。(共同通信=渡部紗生) 大阪府出身の山本さんは北海道大大学院で雪氷学を修了後、気象庁に就職。秋田市、宮城県名取市での勤務を経て、2006年から道内で天気予報を担当している。 地方史を取材し始めたきっかけは、08年に寿都(すっつ)町の測候所で働いていた際、鉱山や鉄道の跡地に「何となく興味を持った」こと。町民に話を聞くと面白いが、町史にも書いていない。「この土地には記録されてないことがいっぱいある」。調べてまとめ、自身のホームページで順次公表した。
09年、そのうち一つを小冊子「寿都空襲」として自費出版。これまでに本10冊以上のほか論文も発表している。仕事時間以外の8割をインタビューや資料収集、執筆に当てているという。 近著では地方史家ら24人のインタビューを掲載。歴史を調べている人はいても、その動機や手法に関する本は少なく、記録することに意義があると考えた。自身の経験を基に気象資料や戦争犠牲者の調べ方、出版費用にも言及しており、北海道以外でも役に立つ本だと自負する。 現在は原爆投下日の長崎の天気について調査中だ。雲が多かったとする米軍側の記録と、晴れていたとする長崎測候所の記録や被爆者の証言が矛盾するからだ。「当日の天気がどうであろうと、被爆して苦労してきた人にとっては今更関係ないような気もする」と断りつつ、「これまでしっかり説明できた人はいない。世の中になかった本を出したい」と意気込む。