「ギリギリ真実を書けるのはもう漫画しかない」…「児童養護施設」のリアルを描いた漫画が訴えること
「児童虐待」の相談は10年間で3倍に…
年々増加しているといわれる児童虐待。’22年の相談件数は21万9170件で、10年前に比べて約3倍というデータもあるほどだ(「全国の児童相談書相談件数の推移:令和4年度 児童虐待相談対応件数/こども家庭庁」)。 【漫画】これが現実! 「児童養護施設」の闇が向かう先とは… そうした状況下において、需要がますます高まっているのが、保護者のいない児童、あるいは家庭での養育が困難な児童や、虐待など保護者に監護させることが適当ではない児童が入所する「児童養護施設」。そして、そんな児童養護施設のリアルを生々しく描いた漫画がある。『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)の原作者・押川剛氏が原作を手掛ける『それでも、親を愛する子供たち』(新潮社)だ。 押川氏は、日本で初めて説得による「精神障害者移送サービス」を創始し、「(株)トキワ精神保健事務所」を創業した人物だが、なぜ児童養護施設の漫画を? 押川氏にインタビューした。 「この漫画に登場する園長のモデルとなったのは、古くからの私の友人で、児童養護施設を運営してきた一族の3代目である、Aさんという男性なんですね。 児童養護施設は、ほとんどの人がその実態を知らないですよね。テレビの特集やドキュメンタリーなどで見ることはありますが、それらとAさんから聞いている実態とはかなり違うなと感じていたんです」 本作は企画のスタートから連載開始までに、準備と取材に5年ほどを要しているという。 「Aさんと知りあい、エピソードを聞くうちに興味を持ったのが5年前です。それから、児童養護施設に取材に行くようになりました。昨年からは理事も務め、具体的に運営に携わりながら、並行してさまざまな取材を重ねているところです」 ◆あまりにも閉鎖的な世界…「福祉分野の専門家は日本では一番地位が低いんですよ」 本作の中には目を背けたくなるような辛い現実もリアルに描写されている。専門家にも監修してもらっているそうだが、名を連ねていない。その事情について、押川氏はこう説明する。 「児童養護施設は非常にクローズドで、個人情報とか、子どもの問題だからとか、保護者の意向がとかいろいろ言いますが、結局、本当にやばい話ほど表に出てこないんだな、ということを実感しました。 例えば取材をしていると、入所している子どもの自傷行為や窃盗、性の問題などの話題も『日常のこと』としてよく出てきます。しかし表には決して出さず完全にクローズドなところは、私が携わってきた精神保健福祉行政の分野と同じです。 児童虐待に関しては、専門の学者も、現場に“同行させていただいている”という言い方をします。あまりに閉鎖的な世界ゆえに、福祉分野の専門家は地位も立場も低く扱われがちです。 この国は制度ありきです。例えば精神保健福祉行政の分野でいえば、一番地位が高いのは法律を研究している方々で、それに付随して関係省庁の方々、その下に精神科医療、さらにその下に看護や心理、福祉があるという序列なんですよ。 だから、細々と研究費をもらっている立場の低い福祉の専門家は、あえて表に出たくないわけです」