「父の所有地」に自宅を建てた長男…父亡きあとに陥る〈悲劇〉を回避するには【行政書士が解説】
特定財産承継遺言とは?
特定財産承継遺言とは、遺産の分割方法の指定として、特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言をいいます(民法第1014条2項)。例えば、「A土地を長男に相続させる」といった内容の遺言です。以前は、このような遺言を「相続させる旨の遺言」と呼んでいましたが、令和元年施行の改正民法により「特定財産承継遺言」という呼称に変更されました。 特定財産承継遺言がされているときは、相続させる特定の財産の所有権が当該相続人に直ちに帰属することになりますので、この特定遺産は遺産分割の対象にはなりません。ただし、特定財産承継遺言をする際には、以下の点も注意して行うことになります。 【注意点1】相続人の遺留分に配慮すること 遺留分とは、相続人に保証されている最低限の遺産の取得割合のことを言います。仮に、遺留分を侵害する内容の遺言であっても法律上は有効と扱われますが、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることで、遺留分侵害額に相当する金銭を取り戻すことができます。この場合、遺留分権利者への支払いは金銭での支払いが原則となりますので、長男は他の相続人に対して、遺留分侵害があった場合の金銭支払いを想定しておく必要があります。 【注意点2】形式不備による遺言書無効のリスクを理解すること 特定財産承継遺言による遺言書を作成する場合、主に「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかが選択されます。自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文を自筆で作成し、費用もかからない方法ですが、形式面の不備によって無効になることもあります。一方の公正証書遺言は、費用はかかりますが、2人以上の証人が立ち会って公証役場の公証人が作成するので、形式面の不備によって遺言が無効になるリスクはほとんどありません。 【注意点3】代襲相続も想定しておくこと 例えば、特定財産承継遺言を作成した後に、受益相続人の長男が遺言者より先に死亡した場合、長男の子(遺言者の孫)が、長男に代わって特定財産を代襲相続できるか?という問題があります。判例では、「長男の子やその他の者に相続させる旨の意思など特段の事情がない限り、代襲相続できない」としています。そうなると、特定財産は代襲相続されず、遺産分割の対象となります。この対策としては、次の2つの方法があります。 ◆方法(1):補充の遺言を記載する 例えば、遺言書の中に「遺言者〇〇の死亡以前に受益の相続人△△(長男)が死亡したときは、その代襲相続人■■(孫)に相続させる」とする一文を記載しておく。 ◆方法(2):代襲相続人■■(孫)に相続させる旨の「新たな遺言」を作成する ※(2)の方法は、その時点で認知症になっていれば新たに作成できないため、(1)の方法が無難です。 【注意点4】特定財産を相続後における登記の必要性と対抗要件を理解すること 特定財産の受益相続人は、特定財産承継遺言がある場合、単独で相続登記をすることができますが、その承継した権利が自身の法定相続分を超える場合、登記の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとされています。例えば、他の相続人が受益相続人に無断で、法定相続分で相続登記(単独でできます)をした後、第三者に持分を譲渡してしまった場合、受益相続人は第三者に対して所有権を主張できないということになります。 平田 康人 行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表 「相続・遺言・終活・不動産」に専門特化した行政書士事務所として活動。“行政書士業務”と“宅地建物取引業”を同時展開する二刀流事務所として、共有不動産の競争入札による売却や、仲介手数料が不要となる親族間・個人間不動産売買のサポートにも対応している。著書に『ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』『最新版 ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』(どちらも同文館出版)がある。
平田 康人