企業の借入金利、半数超が前年度から「上昇」 上昇幅最多は「+0.1%未満」、平均借入金利3年ぶり1%台
金利上昇の割合、最も高いのは「卸売業」、「不動産業」「製造業」は低位にとどまる
業種別にみると、全業種で借入金利が「上昇」した企業の割合が5割を超えた。このうち、最も高いのは「卸売業」で56.4%に上り、なかでも「貴金属製品卸売業」(63.0%)や「家具・建具・什器卸売業」(58.8%)が高かった。次いで「サービス業」(55.9%)で高く、パチンコホールなどの「娯楽業」(59.9%)やIT産業を含む「広告・調査・情報サービス業」(59.1%)が続いた。 他方、全産業のうち金利が「上昇」した企業の割合が最も低いのは「不動産業」(53.3%)だった。土地仕入れ等で借入負担が大きい事業特性も背景に、金利上昇に対してネガティブな反応が大きいことも要因となった可能性がある。設備投資などで借入金額が比較的大きいことも背景に、「製造業」(53.8%)が2番目に低い水準となった。
金利上昇の企業、取引金融機関で大きな差異はみられず
企業の借入金利について、取引するメインバンク の業態別に分析を行った。2023年度における借入金利の動向を金融機関別にみると、前年度から借入金利が「上昇」した企業の割合が最も高かったのは、「メガバンク」をメインバンクとする企業で、56.8%を占めた。以下、「信用金庫」(55.7%)、「信用組合」(55.2%)、「第二地方銀行」(54.5%)と続き、最も低かった「地方銀行」では53.5%だった。各金融機関の業態における、市場金利に連動させる残高の割合と短期プライムレートに連動させる残高割合の差異が、金利動向に影響を与えた可能性がある。ただ、いずれの金融機関でも2023年度に金利が「上昇」した企業が半数超を占めた。 日銀のマイナス金利解除を受け、金融機関では企業の借り換え局面などで利上げの提案を進める動きが活発化している。2024年度以降も、メガバンク・地域金融機関を問わず取引金融機関からの借入金利は上昇傾向が続くとみられる。
「金利のある世界」に対する中小企業の評価は二分 「経営体力」試される局面に
帝国データバンクの調査ⅱでは、金利の上昇が自社の事業にとって「マイナスの影響の方が大きい」と答えた企業の割合が約4割を占め、新規の借り入れや設備投資意欲などへの影響を懸念する声があがった。一方で、「影響はない」とした企業も1割超に上り、預金金利の上昇による好影響や、企業活動の正常化などプラス面を評価する声も多かった。金利の引き上げに対する中小企業の評価は、業種や企業規模、財務内容によって二分された状態となっている。 ただ、実際の企業経営の現場では今後の金利上昇に伴い超低金利の環境下で圧縮できた借入金の「利払い費用」が膨らむことが見込まれ、将来的に企業の収益力が低下する可能性がある。帝国データバンクの試算ⅲでは、企業の借入金利が0.5%上昇した場合、利息負担が1社あたり136万円増加し、全体の3.8%が経常赤字に転落する可能性が判明した。足元では、日本銀行によるマイナス金利政策の解除を受け、メガバンクに加えて地方銀行など地域金融機関でも普通預金の金利引き上げが進むなど「金利のある世界」が広がりつつある。2022年度末時点で1%を下回った企業の平均借入金利も、速報値ながら23年度は3年ぶりに1%台へ上昇した。日銀による金融政策の正常化の流れに伴い、借入金利も市場金利に連動する形で緩やかな上昇傾向が見込まれ、2024年度は利上げ局面に対応できるか否か、中小企業の「経営体力」が試される1年となる。