「花博で大阪のソープは壊滅」関西万博で大阪の〝新地〟はどうなるのか!?飛田新地でナマの声を聞いた
松島新地で摘発が
10月15日までに大阪府警は西区にある「松島新地」の料亭で売春をあっせんしたとして、経営者ら5人を売春防止法違反(周旋)の容疑で逮捕した。この経営者はホストクラブの経営にも関与しており、売掛金が払えなくなった女性に売春をさせた疑いという事情での逮捕のようだが、〝新地〟での摘発に一瞬、衝撃を受けた人も多かったようだ。 【食事もできます】すごい…飛田新地のランドマーク的な存在の登録有形文化財 来年4月13日から10月13日まで184日間にわたって開催される大阪・関西万博に伴い、大阪の〝ちょんの間地帯〟、いわゆる〝新地〟がどうなるのか、さまざまな噂が流れている。ネット上では「万博開催中は全店休業するのでは?」「万博開催前に大規模な摘発があるのでは?」など、営業を危惧する声も飛び交う。 大阪で最大の料亭街である飛田新地は、G20大阪サミットが開催された’19年6月28~29日に〝臨時休業〟し、営業を自粛している。「地域の混乱を防ぐため」「日本で開催してよかったと言われる会合にしてほしいため」であった。 ’25年の大阪・関西万博の際にはどのような対応を取るのだろうか。10月初頭に現地に足を運び、万博が新地に及ぼす影響について、新地やその周辺にいる人々のナマの声を取材してきた。 ◆飛田新地で聞いた〝ナマの声〟 「(飛田新地は)休みにならへんと思う。年がら年中やってるんちゃうか」(工事現場で働いていた地元の中年男性) 「(万博で飛田新地が休みになるかどうかは)知らないですね。今日馴染みの子に聞いてみます」(東京から来ていた男性客) 当事者でもある料亭の客引きのおばちゃんたちにも聞いてみた。 「まだ(組合から)言われてない。分からない。やってると思う。サミットのときはのれんを下ろしたけど。20分1万1000円でいいよ。5分サービスするから上がってって」(裏通りのおばちゃん) 「大丈夫、やってると思う。条例がかかってのれんを下ろすかもしれないけど。入ってや。この子、4時までやから。もうすぐ帰っちゃうから」(表通りのおばちゃん) 料亭の客引きの発言の中の〝のれんを下ろす〟というのは、G20大阪サミットの前後に〝のれん祭り〟として、全店の玄関先にデザインが統一された大きな白いのれんを掛ける〝正装〟をして店先を隠したことを指している。’19年6月21~30日は外から女性が見えず、のれんをくぐって女性を見て遊ぶ形となっていた。「海外から多くの人が集まるので、秩序ある街並みを見てもらいたい」と飛田新地料理組合が配慮したためである。 「万博で休みになる」という話は出なかった。現場の人たちは「全然心配していない」もしくは「関心がない」といった感じであった。 ◆過去にはいくつもの色街が消えている だが、過去を振り返ると、万博、オリンピック、サミットなど、国際的なイベントが行われる際には、必ずと言っていいほど色街の摘発が行われてきた。「来訪する外国人に見られたくない」「対外的に体裁が悪い」という理由から、風俗関係のものがことごとく淘汰されていった。 いくつか例を挙げると、大阪では1990年に行われた大阪花博(国際花と緑の博覧会)を契機に、ソープランドが全面廃業に追い込まれた。ソープの跡地はヘルスへと転向し、現在の姿へと続くことになる。大阪には現在もソープは存在しない。 また、’08年に北海道で行われた洞爺湖サミットの前年には、札幌・北24条のピンサロ街が、防犯と美観の観点から摘発され、’16年の伊勢志摩サミットのときは、三重県の渡鹿野島の置屋が消滅。開催の3年ほど前から当局の取り締まりが厳しくなり、風俗に携わっていた女性たちが島から去っていった。昭和から平成にかけて「売春島」「女護ヶ島(にょごがしま)」などと呼ばれた〝男たちの桃源郷〟は、現在はすっかり浄化され、健全な〝観光の島〟となっている。記憶に新しいところでは、’21年の東京オリンピックの開催前には、警視庁による浄化作戦により都内のピンサロが集中的に摘発され、上野、巣鴨の人気店が姿を消している。 なお、’04年12月から始まった横浜・黄金町の〝ちょんの間街〟の摘発は、’09年の〝横浜開港150周年〟のイベント『開国博Y150』に向けて街のイメージアップを図るためだったともいわれている。黄金町の〝ちょんの間〟は徹底的に取り締まられ、’05年8月までに全店が閉店した。 世界規模の祭典が性風俗産業に多大な影響を及ぼすのは海外も同様で、韓国・ソウルでは’18年の平昌(ピョンチャン)オリンピックを機に置屋街が壊滅する。海外から多くの外国人観光客が押し寄せる首都ソウルに、未だ前時代的な置屋が存在するのはよろしくないという〝国恥意識〟から取り締まりが強化された結果だった。日本だけでなく韓国も〝臭い物に蓋をした〟のである。 ◆〝新地〟はどうなるのか 今回の万博では、現実的には「開催期間中の半年間にわたる全店休業はありえない」と思われる。なぜなら、それは地域にとって望ましいことではないからだ。飛田新地が地域社会にもたらす経済効果は計り知れない。料亭が営業していることによって多くの人が集まり、周囲の飲食店や宿泊施設、交通機関などの商業利益が増加するうえ、巨額の納税により地域行政の財源確保にも大きく貢献している。 長期間の全店休業は〝地域の人〟〝新地で働く人〟〝新地に遊びに来る人〟の三方にとって良いことは何もない。こういったことを、組合は忖度しているはずだ。組合の管理が行き届いている限り、取り締まる側も庶民の利益を無視して全店休業に追い込むことはないだろう。 開会式が行われる前の一定期間や、世界各国の要人が集まる式典の最中には全店休業したり、〝のれん祭り〟をすることがあるかもしれない。飛田新地では、前述した’19年のG20大阪サミットの時期に加え、’21年9月27日には安倍晋三元首相の国葬を受けて全店が休業し、街頭に弔旗を掲げた。また、1989年に昭和天皇が崩御した際も全店休業している。このように一時的な全店休業や〝のれん祭り〟の可能性はあるが、半年間もの長期にわたるのは地域経済へ大きな悪影響を及ぼすことから考えづらいところだ。 私の予想では、全店が休業し街に人の姿がなくなるようなことはなく、逆に、万博を機に訪日した外国人が我先にと押し寄せ〝空前の好景気〟となると思われる。明治時代、東京の吉原遊廓に多くの訪日外国人が見物に訪れたように、令和時代の飛田新地は〝ガイドブックに載っていない日本の一大名所〟としてすでに連日連夜多数の訪日外国人が訪れている。 今回取材した夜には、白人の男性5人、女性6人の団体が英語を話す日本人男性にガイドされて観光に来ていた。この他に、白人男性4人組や白人女性5人組もいた。南アジア系の男性2人組の姿もあった。中国や韓国の男性は数え切れないほどである。万博期間中に憧れの〝聖地巡礼〟を楽しむインバウンド男性や社会見学で訪れる外国人女性たちで今以上に賑わう飛田新地の様子が、今から目に浮かぶようだ。 【後編】では、大阪五大新地の中でも比較的小規模な信太山、今里、滝井という3つの新地を紹介する。普段は〝顔見せ〟があり華やかな飛田新地と松島新地に注目しがちだが、他の新地にもそれぞれ味わい深い魅力がある。穴場的な新地の基本情報と特徴などを紹介しつつ、それぞれの新地の現状や万博開催に対する現地の人々の声をリポートしていきたい。 【後編】関西万博で「新地」は消えるのか!? 信太山・今里・滝井の「大阪穴場新地」で聞いたナマの声 取材・文・写真:生駒明
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