リスキリング支援拡充へ、転職促す「教育訓練給付」とは?
5月10日に雇用保険法が改正されました。具体的に何が変わり、どんな人が得をする制度になったのか、考えていきましょう。 雇用保険は現在、1週間の労働時間が20時間以上の人を対象としています。今回の改正により2028年10月1日以降は、週10時間労働から雇用保険の対象になります。週4日勤務なら毎日2時間半、週3日勤務なら毎日3時間20分働くと、雇用保険の対象になる計算です。 フルタイムで働く人は当然加入の対象ですから、今回の改正ではパートタイムやアルバイトで働いている人の多くが雇用保険に加入することになります。そのため、少し手取りが減ります。 4年後に始まるため、多くの人は忘れてしまうと思います。ただ、4年後には「また増税か!」と騒がれるかもしれません。週10時間に改正されると、対象の労働者数はなんと506万人です。ものすごい人数です。 ■時給が0.6~0.7%目減りするが、メリットも大きい 2024年度の雇用保険料率は、農林水産・清酒製造と建設の事業に該当する場合は、給与の0.7%、その他の一般の事業に該当する場合は0.6%の保険料率となります。 週10時間勤務、時給1200円、月40時間勤務だとすると、給料は1200円×40時間=4万8000円、保険料は0.7%の場合は4万8000円×0.7%=336円、0.6%の場合は4万8000円×0.6%=288円となります。 身構えるほど負担が増えるわけではありませんので、ご安心ください。時給が0.6~0.7%減ると思えばいいでしょう。制度が実施される2028年には、最低賃金を含め時給も上がっていることでしょう。 個人的には、この改正こそ早めてほしいと思っています。筆者の会社のパートタイム勤務の方は20時間勤務までいかない人が多く、教育訓練を受けたくても全額自己負担になってしまうからです。 ■自己都合退職による失業保険受給までの期間を短縮 このテーマが今回の法改正における最もホットな内容です。転職や退職が増える契機となると筆者は考えております。 現在、雇用保険の失業給付(基本手当)を受けるには、7日間の待期期間の後、2カ月間の給付制限がありました。つまり、会社を辞めてもすぐには失業保険を受け取れなかったのです。 ところが来年度、2025年4月1日以降は、2カ月の給付制限が1カ月に短縮されます。離職期間中や離職日前1年以内に、「自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合」には、給付制限を解除することになりました。無給期間を経ずに教育訓練を実施することで、失業中の生活費を確保できることになります。 このため、教育訓練を受けると退職しやすくなると筆者は考えています。住宅ローンの支払い、子どもの学費、生活費など、さまざまな理由が障壁となって会社を辞めることをためらうこともあると思います。来年度以降、働く側にとってはより安心して転職活動ができる環境になりそうです。 ■リスキリングで賃金が上がると追加給付がもらえる つづいて「教育訓練給付」とは、働く人の能力開発やキャリア形成の支援、雇用の安定、就職の促進を図るために「厚生労働大臣が指定する教育訓練」を終了した際に、受講費用の一部が支給されるものです。 簡単に言うと、勉強するとお金がもらえます。ただし、雇用保険に加入していることが必須で、加入期間も一定年数必要です。 教育訓練給付はレベルごとに3種類あり、教育訓練によって給付率に違いがあります。講座の対象は約1万6000あり、教育訓練給付の検索システムで調べることができます。 今年10月1日から、「専門実践教育訓練給付」については、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、受講費用の10%が追加で支給されます。これにより、合計80%支給されます。 「特定一般教育訓練給付金」については、資格取得して就職した場合、受講費用の10%が追加で支給され、合計50%の支給となります。 どんな教育訓練があるのか、調べておきましょう。 ■教育訓練中の生活費を給付する制度が新設! 教育訓練を受講するために仕事を休む必要がある場合、訓練期間中の生活費を支援する仕組みがないことから、受講に踏み切れない人が多いと考えられます。 そのため、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある人が教育訓練のための無給の休暇を取得した場合に、給料の一定割合を教育訓練休暇給付金として支給します。 支給内容は、離職した場合の基本手当と同額で、給付日数は被保険者期間に応じて異なります。 教育訓練については、かなり大盤振る舞いだと感じます。経営者や個人事業主は雇用保険の適用がありませんので、制度を利用することができません。会社員の方にとって学び直しや仕事の方向性を変更するきっかけにできるのではないでしょうか。 一部の業種では、この制度を利用して他の業種に転職する人が増えるかもしれませんね。 高橋 成壽(たかはし・なるひさ)/1978年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2001年にFP資格を取得。投資や保険などのキャリアを経て、2007年にFPとして独立。自身の投資経験と世界の金融ネットワークを活用し、シングルマザーから上場企業の経営者まで、1人ひとりに合わせたお金のアドバイスを提供している。有料のFP相談「 寿FPコンサルティング 」、無料のマネー相談専門家マッチング「 ライフデザインセンター 」を運営。2020年より東海大学非常勤講師として学生向け金銭教育に従事。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
高橋 成壽