「偽善って言ってもらって大丈夫」やす子が信頼される理由 SNS時代に光る純真さと、テレビ業界の脆弱さ
殺伐とした時代に光る存在
その純真さは、真っすぐな言動が人々の心を捉え、数々の成功を収めていく映画の主人公のようだ。 やす子自身、プライベートでもファンサービスは欠かさない。親しい先輩芸人である納言・薄幸は前述の『おしゃれクリップ』の中で「やす子ってファンの方から街で声を掛けられると、絶対『いい1日になりますように』って言う」と明かしている。 筆者もある番組で立ち会った芸能関係者から、「現場でも礼儀正しい」と直接聞いた。今年2月に放送の『Google Pixel presents ANOTHER SKY』(日本テレビ系)の中で、やす子は自身について「根暗で人見知り」「自分は悪い人間」と語っていたが、周囲への気遣いを欠かさないのは、自分とは別の視聴者がイメージする“タレント・やす子”を大切にしたい気持ちが強いのだろう。 それは、やす子がヒップホップグループ「RIP SLYME」に救われたことも影響しているのかもしれない。中学時代、地元・山口県で開催された音楽フェスで観たことをきっかけに好きになったRIP SLYMEは、厳しい家庭環境で育った自身の本音を代弁してくれているようだったという。 自分が求められていることは、周りを明るくすること。前述の『おしゃれクリップ』で、やす子が「ピッカピカの太陽みたいな芸人になりたい」と口にしていたのは、そんな自身の芸風を意識してのことだろう。 少し前にXでフワちゃんの不適切投稿を受けた折にも、一度はショックを受けた印象の投稿をしたものの、数日後に「明るい言葉を発すると楽しくなるよ」と自身が過去に投稿したコメントをリポストしている。ここでも、ファンや視聴者が自分のことでネガティブになってほしくないという意思を感じる。 とくに今年に入ってSNSでは殺伐とした空気が蔓延し、またそれを様々なメディアがネットニュースとして取り上げ、さらにSNS上で拡散されるという炎上の連鎖が続く。そんな息苦しさを感じる時代に、やす子の存在はより光って見えるのかもしれない。 「スケジュールが埋まってるときが一番(筆者注:心が)安定します。仕事がある喜びがやっぱ大きいですね。実際コロナ禍のときバイトを15回クビになって、消費者金融から借金して生活してて300万円近い借金があったので。やっぱ仕事がない怖さを身をもって知ってますし、もう努力あるのみの世界だなって思います」 前述の『ANOTHER SKY』の中で、やす子はこう語っている。その後、宇部市にある夕暮れのキワ・ラ・ビーチを「はいー! はいー!」と元気に駆けていくシーンによって、シリアスな空気が吹き飛んでしまうあたりが実にやす子らしかった。 昨年のテレビ出演本数は295本。ORICON NEWSが発表した「2023年ブレイク芸人ランキング」では、年間通して1位を獲得している。まさにテレビとやす子の思いが合致した形だが、逆に言えば脆弱な業界を反映しているようにも思えてしまう。 なるべくクレームを回避し、視聴率を獲得したい。だから、どの局も老若男女から好かれるやす子をキャスティングする、という現状を少なからず示したものだろうからだ。やす子の活躍を見ていると、そんなテレビの実情も感じられる。