「開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」(東京都現代美術館)開幕レポート。誰もが社会と向き合って考える
東京・清澄白河の東京都現代美術館で、開発好明(1966~)の都内美術館初となる大規模個展「開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」展が開幕した。会期は11月10日まで。 開発は1990年代より、日常生活や社会現象など身の回りの出来事への関心を起点に、コミュニケーションを内包、誘発する表現活動を行ってきた。その発表形態は、絵画、写真、パフォーマンス、インスタレーションの制作のみならずプロジェクトの提唱や発案など多岐にわたる。本展はそんな開発の思考に、作品の展示やこれまでのプロジェクトの紹介などで迫るものだ。 本展の来場者には「ウェルカムキット」として青いバッグが手渡される。この中には発泡スチロール、カード、そして青い紙が入っており、これらを使うことで鑑賞者が能動的に作品に参加することができる。なかでも小さなカードはこれ自体が《ミッション》という作品で、裏面には手に取った人がなすべきミッションが書かれている。内容は詳述しないが、いずれも会場内で何気なく行えるものであり、他の来場者の何気ない仕草も、もしかしするとこのミッションなのかもしれないと勘ぐらせる。 エントランスでは、開発がライフワークとしている毎日撮影した顔写真や、ふせんに日々描いているドローイングなどを展示。また、組立式作品を全国の家庭やギャラリーなど365ヶ所に送って1年間展示する《365大作戦》や、小学生の図工作品と美大生の作品を交換して展示する《虹かけ教室》といった、プロジェクトも紹介されている。 展示室に入ると、早速バッグに入っていた発泡パーツを使う機会がやって来る。《投げ彫刻》は、来場者がパーツを的に向かって投げることでつくられる彫刻だ。日々投げられる発泡パーツによって、会期中そのかたちが変わり続けていく。本作と関連するように、開発が発泡スチロールの形状を生かして制作した動物や茶室、ロボットなどの作品も展示されており、発泡スチロールの素材としてポテンシャルを感じさせてくれる。 子供たちがつくった椅子を連結させてつくられた《ドラゴンチェアー》は渋谷区の小学校で制作されたもの。その中央にあるフェイクファーのカーペットは《都会生活者のオアシス》と名づけられた作品で、靴を脱いでくつろげるが、突如として腰掛の下のモニターから話しかけられてしまうので、心地よい空間はつねに乱される。 《未来郵便局 東京都現代美術館支局》では、バッグに入っていた青い紙を使うことになる。ここは出したハガキが「だいたい1年くらいあと」に届く郵便局だ。青い紙に住所と名前を書けば、その人のところに約1年後に投函される。1年後、誰に何を伝えたいのか、じっくり考えて投函してみてほしい。 東日本大震災をきっかけに制作された作品や実施されたプロジェクトも多い。例えば、作品を詰めたトラックで日本を横断しながら、義援金と応援の声を集めて被災地域へ向かう《デイリーアートサーカス》や、福島第一原子力発電所から20キロメートル圏内の避難区域から400メートル手前に設置した政治家専用の休憩所《政治家の家》などは代表例で、会場ではこれらの活動も展望できる。 こうした震災への姿勢からは、開発がつねに社会で発生した事象に対して介入することで、問題提起をしてきたアーティストであることが伝わってくる。現在進行しているウクライナ戦争に際しても、開発は開戦翌日から反戦デモのプラカード部分だけを取り出した画像を毎日SNSに投稿し続けている。本展会場にも、開発が集めたプラカードの画像を来場者が貼り付けてコラージュ壁紙をつくる作品《毎日デモへようこそ》が現れた。 最後の展示室では、現代美術というフォーマットに対して揺さぶりをかけ続けてきた開発の営みがまとまっている。ピート・モンドリアンの作品を模した巨大靴下や、 ジャクソン・ポロック のドリッピングをあしらった巨大Tシャツといった《巨大オマージュシリーズ》(2016)は、日常と美術を大胆に接続する。また、04年のヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展の会場プランなど、開発が様々な会場で試みてきたことも知ることができる。 本展タイトルにある「ひとり民主主義」とは、元BankART代表の故・池田修が開発の活動を評した言葉だ。社会に対して個人として何をするのか。そんな小さな民主主義について考えさせられる展覧会だ。
文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)