フラット型組織は言葉遊び? 沼上幹氏の組織論
若手の早期離職はネガティブな側面だけではない外の世界に飛び出した人材が自社に新たな知識をもたらしてくれる
――個人の価値観が変化する中で、最近では「会社は自己実現のための場」「会社は自分たちにサービスを提供してくれる場・教育してくれる場」と考える若手が増えている現状もあります。こうした動きに、人事担当者・管理職・経営者はどのように対応すればいいのでしょうか。 原理原則に戻って考えるべきです。冒頭で述べたように、基本的に企業は経済組織体。利益を上げるために従業員に学びをたくさん与えて自己実現させたほうがいいのか、まずはそこから考えるべきでしょう。 教育に力を入れても、今の時代は若手がどんどん辞めていってしまう――。そう嘆く人も多いかもしれません。でも長期的に考えれば、成長した若手が早期に辞めてしまったとしても、会社にとって損失だとは言い切れないかもしれないのです。 たとえば1年間ビジネススクールに通わせ、その後数年間働いて辞めてしまったとしても、その数年で会社に大きな付加価値をもたらしてくれるのであれば、是と考えるべきではないでしょうか。今の時代、個人に一生同じ会社で働いてもらうことは期待できないと、人事であれば理解しているはず。優秀な人が数年間働いてくれるだけでもプラスだと考えるべきかもしれません。 離職者が組織に好影響を与える「リバース・ナレッジ・フロー」という研究もあります。A社からB社へ人材が移るとき、その人材がA社で蓄積した知識はB社に移ることになります。でも、これだけでは終わりません。人のネットワークが途切れてしまわない限りは、B社から逆にA社へと新しい知識がもたらされることもあるでしょう。 人材がどんどん外の世界に行ってくれたほうが、企業としては新しい知識を得るチャンスを増やせる可能性もあります。最近ではアラムナイ(卒業生)とのネットワークをつくる取り組みも増えてきました。イノベーティブなことをやりたいなら、こうした人材施策を本気で考えていくべきではないでしょうか。