ウクライナが劣勢を強いられる「一時的な国際環境の流れ」
慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が2月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによる侵略から2年が経過したウクライナ情勢について解説した。
ロシアによる侵略から2年、ウクライナの民間人の死者は1万人を超えたと国連が発表
国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)は2月22日、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの全面侵略以降、ウクライナ領内で少なくとも1万582人の民間人が殺害されたとする報告書を発表した。子どもも587人が殺されている。 飯田)激戦地の周辺や、ロシア占領地の被害は把握しづらいので、実際はもっと多いのではないかとも指摘されています。 細谷)本当に不毛な戦争です。一体何のために戦争を続けているのか。ほとんどプーチン大統領個人の、「国内の政治基盤を安定化させるために続けざるを得ない」という政治的な思惑によるものです。いまやめれば、ほとんど何の成果もなく、不毛な人命の損失になります。
3月の大統領選に向けてロシア国内に「戦果があった」ことを伝えたいために攻勢を掛けるプーチン大統領
細谷)ロシア側にも約30万人の死傷者が出ていると言われています。国内でも相当の兵力を失い、不満が溜まっている。プーチン大統領としては3月に大統領選挙がありますので、攻勢を掛け、一時的にでもロシア国内に「戦果があった」と示したいのです。個人の欲求で攻撃を増やし、また人命損失が増えている状態だと思います。 飯田)そのプーチン大統領の意図があるから、ウクライナとしても「いますぐ停戦」という提案は受け入れられない。
クリミア併合から10年のロシアの攻撃を見ているウクライナ ~ロシアの行動をまったく信用していない
細谷)そもそも、いまはロシアとウクライナで停戦を議論できる状況ではないと思います。2015年のいわゆる「ミンスク2」と言われる合意でも、ロシアは相手の防御を弱めて効果的に攻撃するため、一時的に停戦を提案しました。相手の力が弱まったとき、一気に広げていくのはロシアの得意な手法です。また、国内の戦力を充足させる意図もある。戦力を補充する時間稼ぎのため、意図的に停戦するのです。 飯田)意図的に。 細谷)当然ながらウクライナはそれをよく知っています。2024年2月20日でクリミア併合から10年が経過しましたが、ウクライナにとっては戦争の10年です。我々がロシアの攻撃を見ているのはこの2年間だけですが、ウクライナの人たちは過去10年の攻撃を見ているので、「ロシアの行動をまったく信用していない」ということが重要なポイントだと思います。