セブンの「リベンジドーナツ」、実は副産物だった?7年ぶりの挑戦の裏には意外な“ドラマ”があった
2023年7月、「お店で揚げたマラサダ」としてテスト販売に乗り出したが、結果は思わしくなかった。客の評判はいまいち。ドーナツはカレーパンよりも生地の量が多く、オイルを吸いすぎてしまっていた。 そこで粉の配合を見直した。もちっとした食感に仕立てるために入れていた米粉の配分を増やした。米粉は小麦粉よりも油を吸いづらい特性がある。米粉の中でもより吸油しづらいものを選定し、それに合うように小麦粉の種類も変更していった。
数々の改良を経て現在の生地を完成させ、マラサダのテストから1年後の2024年7月、リング状のドーナツも含めて埼玉県から販売を広げていった。 販売は好調だ。9月には導入済みの約5000店舗で1日平均25個を売り上げた。現在は販売店舗数を広げる中で、工場への負担を抑えるために販促を控えている状況で、まだ伸びしろがありそうだ。 ■今年3月に「次世代商品部」が発足 一方、会社全体に目を向けると、セブンは苦戦が続く。2024年3~8月期の平均日販は69.9万円で、前年同期比0.2万円減となった。
額ではローソンとファミリーマート(ともに日販57.3万円)を圧倒するが、両社が増収傾向を維持する中、セブンはマイナスだ。セブン‐イレブン・ジャパンの永松文彦社長は「(節約志向の高まりという)変化への対応に半年ほど遅れてしまった」と語る。 この反省のもと、セブンは足元で価格を重視したキャンペーンを広げている。低価格のおにぎりの導入や弁当を値下げし、値頃感のある商品に「うれしい値」というPOPをつけるものだ。このキャンペーンは本格始動した9月以降、少なくとも半年以上は続け、長期の取り組みになる見通しだ。
そこで懸念されるのが粗利率だ。低価格の商品が増えて粗利率が低下すれば、粗利益を分け合うFC加盟店と本部の双方に影響が生じる。この点、高い利益率を誇るファストフードの強化は重要な課題だ。実際、ドーナツは9月の実績で日販にプラス0.4%、粗利率でもプラス0.2%の貢献があった。 セブンは今年、商品本部の傘下に次世代商品部を新設し、ファストフードを中心に新たな商品開発に本腰を入れている。 足元では一部店舗に小型オーブンを設置し、焼きたてのピザやメロンパンを提供する取り組みを進める。こちらも同じ生地系の商品だ。
将来的に、セブンはドーナツやカレーパンなどを合わせた「出来たてパン」のカテゴリーを打ち出し、消費者に訴求する考えだ。「出来たてパン類は加盟店の利益を上げられる重要な商材。急いで拡大を進めていく」と米田氏は語る。 カレーパンの大ヒットから生まれたセブンの「リベンジドーナツ」。10年にわたる生地系商品の開発はまだ終わらない。今後もヒットを狙った出来たて商品が続々とカウンターに並びそうだ。
冨永 望 :東洋経済 記者