投資内容がわかりやすくて馴染み深い 住居特化型J-REITの特徴と展望
日本版不動産投資信託(J-REIT)の中で最も私たちの生活と密接していて、イメージがつきやすいのは住宅特化型のものです。投資対象は主に賃貸マンションになっています。こうした馴染みがあり、わかりやすそうな住宅リートにはどのような特徴があるのでしょうか? 今後の展望とともにミリタス・フィナンシャル・コンサルティングの田渕直也さんが解説します。
賃貸マンションの賃料や空室率は安定性が高い
住居特化型J-REIT(以下、住宅リート)は、主に賃貸マンションに投資をします。投資対象としての賃貸マンションの最大の特徴は、空室率や賃料水準の安定性です。 オフィスのニーズが景気動向に左右されやすいのに対して、住居は景気動向に関係なく必要とされるものだからです。たとえば、景気が芳しくないときには、持ち家の取得が進まずに賃貸住宅に対する需要が高止まりする傾向があります。賃料の水準自体も、立地や築年数などでだいたい決まっていて、大きく変動することはありません。 この安定性が住宅リートの大きな特色ともなるわけですが、これにはマイナスの側面もあります。景気が良くなっても、賃料水準が上がってリートの利益も増加するということが期待しにくいのです。安定性が高い代わりに、利益の成長(内部成長)期待が低いということですね。 また賃料水準は安定しているといっても、長年のデフレ傾向を反映して、傾向的にはわずかに低下基調にあります。借家に住む一般家庭において、家賃はかなりのウェートを占めていますよね。よほどの好景気やインフレにならない限り、賃料水準が大きく上がることは期待薄なのです。 また、住宅の価格は、オフィスや商業施設に比べて大きく上昇しにくいという面も見られます。 ここで、実際の住宅リートの価格動向を少し見てみましょう。グラフは、住宅リートの代表銘柄の一つ、日本アコモデーションファンド投資法人の価格動向を東証J-REIT指数と比較したものです。 2008~09年にかけて、リーマンショックの余波でJ-REIT指数が大きく低下しているときに、日本アコモデーションの価格は下げ幅が小さくなっていますね。住宅リートの安定性が見事に発揮された好例といえます。 ところが、その後の上昇局面でも、日本アコモデーションの価格は、J-REIT指数に勝るとも劣らないパフォーマンスを示しています。住宅リートは伸びしろが少ないと言ったばかりなのですが、少なくともここ数年は上昇局面でも強さを発揮しているといえそうです。 その理由としては、金融緩和政策によってJ-REIT全般が押し上げられる中、利回りがオフィスリートなどに比べて比較的高くなりがちな住宅リートに資金が集まったことが考えられます。 ちなみに、現在の分配金利回りは、住宅リート平均で3.59%、J-REIT全体の3.32%、オフィスリートの3.02%よりも高くなっています。ただし、近年の高パフォーマンスによって、利回り面での優位さは少し薄れてきています。また、NAV倍率はJ-REIT全体の1.28倍、オフィスリートの1.36倍に対して、住宅リート1.33倍と、こちらは割安さが感じられない水準になっています。(数値は5月31日現在) さて、賃貸マンションの稼働状況は、中長期的には人口動態に強く影響を受けます。人口(世帯数)が増えれば、賃貸住宅に対する需要は増加します。そうした点で、東京を中心とするエリアでは、当面の間は人口及び世帯数の増加が見込まれており、環境は悪くありません。ただし、それ以外の地域で、人口減が見込まれているエリアでは、環境が悪化するリスクが大きいといえます。