裏金批判で揺らぎ始めた保守基盤、自民王国・山口でも逆風-衆院選
地方の声
幕末に松下村塾を開設した吉田松陰の影響を受けた長州藩の木戸孝允、伊藤博文らは薩摩藩と共に明治維新を主導した。1885年に内閣制度を創設して自ら初代首相を務めた伊藤に始まり、山口県からは戦後の岸信介、佐藤栄作、安倍各氏を含む最多の8人の首相を輩出している。
かつては漁業や炭鉱業で栄えたが、若年層の転出超過が続き人口は1980年代から2割減少した。地域経済は疲弊している。面積の7割を占める山あいに人口1ー2万人規模の集落が点在し、商店街の多くがシャッターを閉じたままだ。ただ、人口減少局面であっても道路の整備は進み、九州との間を巨大なつり橋でつなぐ構想も進んでいる。
背景の一つに、地方の有権者は人口が集中する大都市よりも国に声を届けやすいことがある。今回の衆院選では一票の格差を是正するための「10増10減」で山口県など10県の選挙区が減り、東京、神奈川などで選挙区が増えた。ただ、総務省の資料によると、見直し後も一票の格差は2倍を超えており、地方で投じる一票が都市部より相対的に重い状況は続いている。
地方の高齢者層には自民党への支持が強い傾向もみられる。自民党は長年、農業や漁業団体、建設事業者など地域の産業から要望を受けて国とのパイプ役を果たしてきた。山口県の今年度当初予算の歳入のうち、国が公共事業や災害復旧など事業使途を決めて交付する「国庫支出金」は852億円で全財源の11%を占めた。
2区の岸氏は公示日の演説で、「市や町に要望をあげてもらい、国に届ける仕事をしている」と主張。かけつけた自治体トップらとの結束をアピールした。伝統的な自民党政治を継承する形だ。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、毎年のように巨額の補正予算を組んで地方にも配分しているが、人手不足の問題もあってうまく事業が進まず、地方の人はあまり恩恵を感じていないとの見方を示した。物価高騰の長期化で政治への不満がたまり、年金生活者も多い高齢者の保守層にとって「自民党が魅力的に映る要素は減ってきている」とも指摘した。