「このままじゃ16人にも入れないよ」原晋監督の“厳しさ”を実感した青学大キャプテン「泣きましたね…あの時は」“どん底”の1年前から笑顔で引退するまで
優勝した青山学院大のキャプテン、田中悠登の第一声は意外なものだった。 「やっと、終わりました」 【現地写真】「めっちゃ仲良さそう…」給水で“乾杯”した田中キャプテン&黒田くん・若林くんのハグ、「左手薬指キラリ…」青学大エースの“婚約指輪”などすべて見る なにか憑き物が落ちたような表情をしていて、表情からも「険」が消えていた。 「うれしいというより、終わったというのがいまの実感です。いやあ、本当に終わりました」 今季の田中はずうっと故障に悩まされた。駅伝シーズン、ようやく11月の全日本の5区に出場することになり、こんなメッセージをくれた。 「明日、ようやくスタートラインに立てます。夏に取材していただいた際は、本当に前が見えなくて苦しかったのですが、『落ち込んだ分、這い上がれるよ』という言葉をいただいて、ここまで頑張ってこられました」
「このままじゃ、16人にも入れないよ」
試合に出ること、それは大きな進歩だったが、チームは国学院、駒澤に力負けして3位。そしてそこからまた痛みとの戦いが始まる。 下半身にしびれが出てなかなか収まらず、当初はその原因も分からないまま、11月半ばまでは練習が満足にできなかった。そんな田中に対し、原晋監督は厳しかった。 「このままじゃ、16人にも入れないよ」 登録メンバーにさえ入れない――監督から突き放すような言葉をかけられてしまった。それが競争の激しい青学大の現実だ。厳しい言葉をもらい、田中はこう感じていた。 「監督からの“愛の鞭”だとは分かっていました。でも立ち直れないくらいつらい状態で。そんなとき、同期、後輩にも助けてもらって、なんとか戻ってこられました」 しびれの原因は神経痛と分かってからは対策を取れるようになり、11月下旬から練習を再開。青学大のメンバー選考に重要な意味を持つ12月上旬の千葉・富津の合宿では100パーセントの練習を積むことが出来て、原監督も迷わず田中をメンバーに加えた。
「やらかしてしまった」想定外の9区に
田中は青山学院大を卒業後、地元福井の放送局でアナウンサーになる予定で、箱根駅伝が競技者としてのラストラン。本人のなかで最後のイメージが出来ていた。 「10区アンカーを務めて、優勝のガッツポーズをしながらフィニッシュテープを切る――その予定だったんですが、最後の最後のポイント練習でやらかしてしまったんです」 やらかし。それは陸上競技の隠語で予定された練習メニューをこなせなかったり、駅伝で番手を大きく落としてしまうことを指す。ところが、田中の“やらかし”は違った。 「練習で想定以上に調子が良すぎたんです(笑)。出来が良すぎて、監督から『こりゃ、9区だな。10区じゃもったいない』と言われてしまい、9区に決定(笑)。自分の状態が良すぎて、ラストランのイメージが狂ってしまいました」 なんとも、ポジティブな青山学院大らしいエピソードだ。 そして迎えた箱根駅伝。青学大は往路優勝し、総合優勝に限りなく近づいた。9区を走ることになった田中は主務の片桐悠人から、「お前が作ったチームだから、自分が優勝を決めてこい」とのメッセージをもらっていた。 「キャプテンとして苦しかったこともたくさんあったんですが、片桐からの言葉と、そして監督からもラスト3kmのあたりで、『ここからの走りで優勝決めるぞ! 』と言ってもらって、残り3km、ラスト1kmで力を出し切ることが自分の仕事だと思いました」 田中は区間2位の走りを見せ、2位の駒大との差を2分21秒にまで広げて、優勝を決定づけた。キャプテンが優勝を引き寄せたのだ。
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