なんと、地殻はマントルの上で「浮いて」いた…地球スケールで考える「アルキメデスの原理」
盛り上がる火山
ただし、細かく見ると、個々の火山体ではアイソスタシーが成り立っていません。断面図(先程の図2の(a))を見れば、個々の火山の高まりと地殻の厚さとが完全には対応していないことが、すぐにわかります。たとえば西之島は海面上に顔を出していますが、地殻は約20kmしかありません。火山の高さと地殻の厚さとの間には、関係がないことになります。 この観測事実は、火山の高まりがアイソスタシーだけでは説明できないことを意味します。これは、火山直下ではマグマが貫入していて、地形を盛り上げているためです。アイソスタシーの成立(マントルの流動)には時間がかかる一方で、現在マグマ活動が起きている火山(活火山)ではつねにマグマが貫入してくるので、アイソスタシーとは無関係に地形を盛り上げてしまうのです。マグマの貫入が終了すると、西之島はアイソスタシーにしたがって沈降するでしょう。 アイソスタシーの成立に向けて地形が変化する場所は、マグマの貫入を終えた火山だけではありません。代表例は、気候の変化などにより陸上の氷床が増減する地域です。寒冷な気候のために大陸地殻の上にぶ厚い氷床が形成されると、その重量によって地殻は押し下げられます。 そして、気候が温暖化するなどして氷床が減る(薄くなる)と、地殻を押し下げる効果が弱まり、マントルの流動により地形が隆起するのです。氷床の増減にともなう地形の沈降や隆起は、いずれもアイソスタシーの原理で説明できます。 現在この理由による隆起が観測されている場所として、スカンディナヴィア半島が有名で、年に数センチというペースで隆起が進んでいます。 もう一度、先程の図2(a)で伊豆小笠原弧の地殻と水深の関係を見てみましょう。地殻の厚さが北部と南部ではっきりと異なっていることにも気づきます。山を除いた部分(火山と火山の間)の水深が浅い北部では地殻が厚く、水深が深い南部では地殻が薄いのです。 この地殻構造は、大陸地殻をつくる「生の安山岩マグマ」の生成メカニズムにとって本質的に重要です。このことについては、『大陸の誕生』の第3章でくわしく議論しましたので、ぜひご一読ください。 *次回、〈なんと、地殻はマントルの上で「浮いて」いた…地球スケールで考える「アルキメデスの原理」〉は、6月11日(火)公開予定です。 ---------- 『大陸の誕生 地球進化の謎を解くマグマ研究最前線』 ----------
田村 芳彦(海洋研究開発機構(JAMSTEC))