我々人間が「子供」を愛するのは純粋に「子供のため」ではない…人が自らを犠牲にしてまで「親族」を助ける本当の理由
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第24回 『「DNAの大半が“遺伝情報”を持たない理由」を完璧に説明する衝撃的な“発想の転換”…「遺伝子」は「人間」のために存在しているのではなかった!』より続く
ハミルトンの法則
利他的な性質が安定して継承された理由を示す最初のヒントとして、ウィリアム・D・ハミルトンが唱えた「包括適応度」を挙げることができる。「ハミルトンの法則」は進化生物学的方程式として、おそらく最も有名だろう。 この法則によると、特定の条件がそろったとき、たとえ行為者に不利益が生じるとしても、利他的な行為が期待できる。その条件とは、第一に利他的行動の対価が小さいこと、第二に利他的行為者と利他的行為の享受者が近親関係にあること。いわば、相手を助けることが“自分の遺伝子”を助けることにもつながる場合だ。 これを公式化すると「rB>C」となる。享受者は利他的な行為から行為者よりも多くの利益を得なければならない。したがって、「B>C」となる(Bは利益を、Cはコストを指す)。 しかし享受される利益は、近親度(rで示される血縁係数)により減少するため、同係数を掛け合わせる必要がある。私は遺伝子の100パーセントを自分自身と共有しているが、両親や実の兄弟とは(平均して)50パーセントしか共有していない。 いとこになると、共有しているのはたった12.5パーセントだ。私が兄のために何かをした場合、適応度の低下という不利益を正当化するには、私の行為による兄の利益が、私の不利益よりも少なくとも2倍は大きくなければならない。なぜなら、Bにr=0.5が掛け合わされるからだ。
【関連記事】
- 【つづきを読む】「心理学/数学/経済学/社会学…最強はどれだ?」…人間の協力関係を制す“最高の戦略”を導き出した“20世紀で最も有名な実験”の衝撃
- 【前回の記事を読む】「DNAの大半が“遺伝情報”を持たない理由」を完璧に説明する衝撃的な“発想の転換”…「遺伝子」は「人間」のために存在しているのではなかった!
- 【はじめから読む】ニーチェ『道徳の系譜学』では明らかにされなかった人類の“道徳的価値観”の起源…気鋭の哲学者が学際的アプローチで「人類500万年の謎」に挑む!
- 「生存に不利」なはずなのに、なぜ我々人間には「モラル」があるのか…科学者たちが奮闘の末に解き明かした人類の進化の「謎」
- “人間”が利他的なのは“遺伝子”が利己的だから!?…生物学者が唱えた「モラルと進化の謎」を紐解く衝撃の視点