カスタムのGT-Rで「ワイルド・スピードの世界」を味わえる外国人観光客向けツアーに同行してみた
現在、円安を背景に日本には海外からの観光客が押し寄せている。彼らは、名所を巡り、日本食などを味わい、ありとあらゆる日本独自の文化・習慣に触れている。 【画像】すごい…まるで「草レース場」のようにGT-Rを見送るギャラリーの群れ 京都・祇園や浅草で着物や浴衣を羽織って歩いてみたり、忍者の服装で手裏剣の練習をしてみたり……と、実際に伝統的な日本文化の体験を楽しむ外国人もいる。それらと同様に、“Cool Japan”として人気の体験型アトラクションが、都内の繁華街を列になって走る”マリカー”だろう。著作権で問題になり、現在では“マリオカート” の登場キャラクターそのまんまではなくなったが、それっぽい着ぐるみを身に纏い、小さなカートで公道をゲームの世界のように走る……というのはもはや珍しくない光景だ。 しかし、ある時、奥渋の閑静な住宅街を数台のR35のGT-Rが移動しているのを見た。どれも有名カーショップの名前がボディに踊っているカスタムカーであり、運転しているのは皆外国人観光客だろう。小さなカートではなく、あの『ワイルド・スピード』の世界さながらに実際に海外で人気のスポコン(スポーツコンパクト)を運転しているのだ。 ご存じない方に説明すると、『ワイルド・スピード』は’01年の第1作からこれまで10作品を数え、現在も続く人気映画シリーズだ。最近ではミッションインポッシブル的な色合いを見せているものの、当初はその純度の高いカーアクションで車好きを熱狂させた。初期の『ワイルド・スピード』ではカスタムされた国産スポーツカーが多数登場し、特に第3作では日本が舞台になっており、ドリフトなど日本で独自に発展した車文化も大きくフィーチャーされていた。 気になって調べてみると、Ichioku Toursという業者がそのサービスを提供していた。 同社の担当者に聞くと、渋谷のスクランブル交差点、大黒PA、東雲のオートバックス、東京タワーなど(状況によってそれは変わる)を巡るトータル約4時間半のルートを、スタッフの運転する先導車について参加者は自らの運転で移動するという。 「R35のGT-Rはそうではないですが、アメリカでは25年ルールの縛り(アメリカでは、通常はかかる右ハンドル車の輸入制限が、製造から25年経過したものについては解除される)があり、JDM(Japanese domestic market)と呼ばれる日本車は人気が高く、海外では高騰しています。観光客は東京の思い出として実際にGT-Rを運転したり、記念撮影したいのだと思います。参加者は100%外国人、HPも日本語ではありません。一番多いのはオーストラリア人で、次にヨーロッパ人、アメリカ人やカナダ人は10%程度で、たまにアジア人という割合です」(Ichioku Tours担当者) そんなツアーに帯同させてもらった。まずは17時半ごろに奥渋のガレージ前に集合し手続きを終える。当然のことながら、オーガナイザーであるIchioku Toursが所定する国際免許は必須だ。この日の参加者は、父母と6歳ほどの男児の家族や、タトゥーの入った男性と女性のカップル、1人で来ているマッチョな男性など。乗る車は何台かの中から選べる。有名カーショップ・リバティウォーク社カスタムのR35のGT-Rや350Z(フェアレディZ Z33)、アメリカでの25年縛りなどがあり海外では運転することが難しいGT-R仕様のR34スカイラインなどがこの日は選ばれていた。先導するスタッフは何人かおり、それぞれが数台を引き連れて移動する。 その一行に実際について行くと……スタッフは上手に後続車をリードしながら、下道から首都高に。参加者の運転するR34も分岐をスムーズにクリアして、見晴らしの良いレインボーブリッジを通過。流れに乗りながら湾岸線を大黒PAに向かう際には、先導車と参加者の車の間に他の車が入ったりもするが、先導車はレーンチェンジをしながら後続車を待ったり……と、器用なものだ。 大黒PAに到着すると、330台ほどの駐車スペースの半分ほどは普通車で埋まっているが、売店などサービス設備から遠い場所は、車好きたちがアピールしたい車を置き、そんなお目当てのクルマを見たい人たちが各々ウロウロするエリアになっているようだ。ランボルギーニなどの超高級外車をはじめ、国産カスタムカーもたくさん停まっている。 「大黒PAには車好きが集まることが世界的に知られており、海外からの旅行者には大人気です。その後の立ち寄り場所をスキップさせることもあるほどです」(同前) その言葉通り、暗くなり始めた大黒PAはちょっとした祭りのようにごった返していた。車の間を行き交う人の半分以上は外国人だ。皆の関心の対象となるスペシャルな車たちはポジションライトを点けたまま駐車され、辺りのライトをボディに写し込んでいる。彼らは興奮気味にあちこちのカスタムカーや外国製のスポーツカーを眺めたり、写真に収めたりしている。その様子は、まるで『ワイルド・スピード』の劇中、草レースの場に集まるギャラリーのようだ。実際にはかかっていないのだが、彼らの脳内ではMVのようにHIPHOPが鳴り響いていただろう。 当のツアー参加者も車体や、車体に自分を入れ込んで……と、いろいろ撮影していた。そんな参加者の男性に声をかけてみると、興奮気味に、「ここに来るのは初めてではないけど、この車では初めて! Awesome!(素晴らしい!)」とのことだった。 大黒PAでちょっとしたお祭りに参加した気分になった後、PAからの出口で大勢のギャラリーに送り出されながら、今度は首都高を別のルートで東雲のオートバックスに向かう。一緒に移動している車のテールライトやヘッドライトも雰囲気を高める。自らが運転していると、どんな外装の車に乗っても、その姿は自分の目では確認できないのだが、前後や脇を同様の車が走っている。そのため、GT-Rのロゴが真ん中にあしらわれたハンドルと暗い中に光るインパネの先には、他のGT-Rなどが見えて、気分はアガるのだ。 東雲のオートバックスは都内有数の車用品店だが、一行はその閉店間近の駐車場に滑り込み、お土産タイムだ。この辺りはあくまで車をモチーフにした観光ツアーならではだろう。 オートバックスを後にすると、今度は東京タワーに。オレンジ色にライトアップされた東京タワーを遠くから眺めながら近寄る際は、日本人でも少しテンションがアガるもの。R35のGT-Rのハンドルを握っていたアジア系の女性に話しかけてみると、香港からのカップル旅行者だった。大黒PAでも、限られた時間の中2人はあちこち動き回りながら車を見ていた。 「I love “Fast and Furious(『ワイルド・スピード』の原題),my favorite!”」 と興奮気味に言っていたのは聞き取れた。この日は、付近の通行止めなどの事情もあり、残念ながら渋谷のスクランブル交差点を通ることはできなかった。ここからはガレージへ戻るだけ。それでも渋谷駅近くのネオンが輝く中を走行することはでき、『ワイルド・スピード』ファンにはたまらない大満足なツアーだったはずだ。 しかし、改めて担当者に話を聞くと、事業者と参加者の思惑には多少の乖離があるようで……。 「確かに、Netflixの影響で『ワイルド・スピード』の中のように交通ルールを無視したギャングたちの無謀運転に憧れる若いお客さんもいるかもしれません。日本在住の外国人が違法改造車を購入し、外国人観光客を乗せ、高速道路で危険な運転を繰り返す“リアルワイルド・スピード体験”を謳う違法性の高いケースもあります。 しかし、私達は、そんな『ワイルド・スピード』体験を望む外国人観光客は全く意識していません。あくまでユニークな日本の車両を提供し、安心・安全に大黒PAツアーを外国人観光客に案内することを目的としています。当社では行政との話し合いや指導に従いながら適切に対応しています」(同前) 交通ルールを守るのは当然のこと。また既に定着した“マリカー”などとは違った新しい形のサービスだけに、そのルールやシステムが固まっていない部分もあるのかもしれない。車好き外国人観光客はそのルールを守るのは勿論、それ以上のマナーも求められるだろう。
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