「演じるうえで年齢や性別は意識していないかも」――朝ドラ“空さん”役で話題の40歳ボーダーレス俳優・新名基浩の動力は
初舞台は高2の文化祭だった。 「20分ぐらいのお芝居で、タイトルは『名探偵は二人ぼっち』。シンプルな、ちょっとコメディータッチの芝居の主役でしたけど、もう足が震えて緊張して汗かいて、でもそれがなんかすごい快感で。お客さんも全然いなかったんですが楽しくて。そこから高校演劇の大会にエントリーしたり。勉強だけっていうのがどうしても性に合わなかったらしくて、いろいろ鬱憤があったんじゃないですかね。感情とか表に出すタイプでもなかったから、演劇が救いになっていたのかもしれないです」 形こそ違うが、なにわバードマンにも通じるような日々を送っていたといえる。
「運動部なんて野蛮だ、ぐらいにしか思ってなかったんですけど、汗を流して一生懸命走り回る姿って美しいなと。勝つ負けるじゃなくて、人が打ち込む姿ってやっぱり美しいっていうか、混じりっ気がないじゃないですか。大人になると、ここでこうすれば人はこう見てくれてこうなるだろう、っていう打算があるけど、そんなこと関係なくやってるから」 その後、広島の大学に進学。卒業して就職した後、一度は演劇の道から外れるも、アマチュア劇団などを経て31歳で上京する。 「当時は気持ちだけ先走っていたので『なんとかなる』って思ったんですけど、なんとかならなくて(笑)。上京してすぐ『はえぎわ』という劇団に出させてもらい、これを機にと思ったら、まったく仕事につながらず。積極的に劇団の公演や映画を見に行ったりしたけど、あとはもう散歩するしかなく、駒場の東大の周りをぐるぐる歩いてイタリアン・トマトで時間をつぶす、みたいな。もちろんアルバイト暮らしだし、『何しに東京に来たんだ?』という“無”な時間が2年くらい続きましたね」 まさに先の見えない日々のなか、ふとしたことから人生が動き出す。
「上京して2年半くらい経った頃、古舘寛治さんがいた劇団のワークショップを受けたら、公演に出ないかと声をかけていただき、岩松了さんの作品に出ることになったんです。その1年後くらいに岩松さんが『家庭内失踪』という作品で稽古場代役を探している、という話をいただいて」 稽古場代役とは、演出家が俳優として舞台に立つ場合、稽古の際にその代わりを務める俳優のことである。 「出番のないときはずっと岩松さんの隣にいました。岩松さんは、人間関係ってこういうことだよね、人間ってこうじゃないの、もっとわかり合えないものじゃないの、ということを常に提示される方で、稽古プラスアルファで学んだことがすごい多かったですね。自分の思考のきっかけの一つとして影響を受けています」