事前に情報? ISは関与? スリランカ連続テロ いくつかの注目点
なぜスリランカがテロの標的になった?
この問いに答えるためには、スリランカの内戦の歴史をひも解く必要があります。1972年に国名がセイロンからスリランカへと変わった頃には、すでに燻ぶり始めていた多数派シンハラ人と少数派のタミル人の確執が嵩じ、1983年から両民族は内戦に突入しました。 タミル人の分離独立を目指す過激派組織「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)は、「ブラックタイガー」という女性中心の自爆部隊、「シータイガー」という海上部隊、さらに、小規模ながら「エアタイガー」という航空部隊も保有し、特にブラックタイガーの自爆テロで、インドのラジブ・ガンジー元首相(1991年5月)、シンハラ人政権のプレマダサ大統領(1993年4月)ほか政府首脳や高級軍人らを殺害しました。 LTTEはヒンズー教徒が主体でしたが、メンバーにはイスラム教徒、キリスト教徒もいたといわれています。2009年5月に最高指導者プラバカラン議長が政府軍に殺害され、26年続いた内戦は終結しました。しかし、軍事力で組織を消滅させられたタミル人の恨みは消えるはずはありません。また、長期にわたる戦闘経験から、テロに関しても、爆弾の製造技術や物資調達、標的を偵察する技術、資金集めに関する技術・ノウハウをいまだに持ち続けている元メンバーもいると思われます。 ISは民族闘争には関心が低いと思われますが、タミル人の優秀さと、テロの技術には魅力を感じて当然でしょう。スリランカのムスリムは、最初はアラブ系のムーア人が主体でしたが、現代ではタミル人が多く暮らす北部、東部を地盤とし、タミル人との温血も進んでいます。したがって、スリランカの人口2100万の内の9.7%(約200万)のイスラム教徒は、ほとんどがタミル語を話します。 ISがシリア・イラクの拠点を失い、海外での組織復活を目指しているときに、インド、スリランカのタミル人を取り込もうと考えても不思議ではありません。上記のISが出した犯行声明は、アラビア語、英語とともにタミル語にも翻訳されていたことが注目されます。 筆者は、インドとスリランカ、そして東南アジア各国に拠点を持ち、英知と技術力に富み、政権への憎悪も消えていないタミル人を取り込み、報復のテロを行おうとしたのではないかと考えています。すなわちISは、1小国の民族紛争を、IS独自のフィルターを通して見事にキリスト教徒とイスラム教徒間の宗教紛争に昇華させたのです。