部活動の地域移行で「外部ボランティア」が負う法的責任とは?単発的な見守り役でも「注意義務」はある
地域移行は「学校主体型」がスムーズ、保護者も部活動に参画を
――外部ボランティアでも法的にはノーリスクであるわけではないということですね。 法的責任について知れば知るほど、部活動の地域移行に関わりたくないと思う方も出てくるかもしれません。教職員の人手不足の中、文科省や教育委員会としては部活動を学校の外に出したいのだと思います。その試み自体は、決して間違っていないと思いますが、保護者の目線からすると、学校主体型、すなわち、学校が主体となり部活動を継続しつつ、多くの部活動指導員を外部から任用して外部の人材を取り込むという方策の方が、教職員の負担軽減と安心安全な運営が両立すると受け止められる可能性もあるように思います。 ――保護者は部活動の地域移行についてどう対処していけばいいのでしょうか。 自分の子どもが参加する部活動が、学校主体型と外部団体受け皿型のどちらなのかをまず認識することです。外部団体受け皿型であれば、その団体が傷害保険や賠償責任保険といった必要な保険に入っているのか、その団体や指導者は信頼できるのかを見極める必要があります。 ――外部団体受け皿型の部活動が増えるにあたって、改善への提案やご意見をお持ちであればお聞かせください。 法令の改正が必要になりハードルが高いところですが、外部団体受け皿型で部活動を運営する場合であっても、単なる民間のスポーツ教室とは異なり「学校と連携しながら部活動を担っている」という公共性に着目して、災害共済制度を適用させるなどの対応が考えられます。災害共済制度の適用があれば、少なくとも、受け皿団体において独自に傷害保険に加入する負担がなくなると思います。部活動の地域移行を本気で進めるなら、国においてもそういった負担軽減策も検討していただけるとありがたいように思います。 ――最後に読者にメッセージをお願いします。 子どもにとって部活動は意義のあるものですし、一部の子どもにとっては、教室とは異なる居場所になっている現実もあります。昨今は、育った家庭によって子どもたちの体験に格差があるとの指摘もされており、そのような観点からも、部活動はさまざまなスポーツ・文化活動を行う機会を子どもたちに提供する重要な取り組みだと感じています。 だからこそ保護者も、法的な整理を理解した上で、敬遠するのではなく、みんなで知恵を絞って、部活動を持続可能なものにしていかなくてはいけないと思うのです。部活動を外部団体が担うとなった場合でも、会計処理や大会申請書類の作成などの事務仕事もたくさんあり、事務作業であれば協力できるという保護者もいると思います。 時には、部活動で発生したいじめなどの課題にも対応しなくてはならない場面もあるかもしれませんし、さまざまな不安や負担があるとは思いますが、だからと言って、「では、部活動の地域移行から目を背けましょう」とはなってほしくはないです。逆にいうと、これまで、こういったリスクと負担のある活動をすべて学校の教職員だけが担ってきたわけです。今後は、学校だけでなく、保護者も汗をかいて、学校主体型にしろ外部団体受け皿型にしろ、部活動に関わっていかなくてはいけない場面が出てくるのではないでしょうか。日本の部活動は今、まさに瀬戸際にあると思います。 山本 翔(やまもと・しょう) 2008年12月に弁護士登録。 弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所に入所。子どもの権利に関する委員会(第二東京弁護士会)の委員や、一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻の非常勤講師(現代取引法)としても活動。著書として、『部活動の地域移行に伴う法律相談』(日本法令、2024年)、『民事執行入門』(金融財政事情研究会、2022年)など (文:國貞文隆、編集部 田堂友香子、注記のない写真:Sunrising / PIXTA)
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