世界中の「出生率上昇のためのバラマキ」にはどれほど効果があるのか
補助金の効果は出ていない?
豊かな国のほとんどは、妊娠・出産を促すための取り組み強化に乗り出した。中所得国家もまた同様である。 2024年1月、マクロンは「フランスの人口統計学的再軍備」というキャンペーンを打ち出した(この目玉は不妊検査と出産休暇である)。ドナルド・トランプは、もし11月の米大統領選で再選すれば「ベビーブームを起こすために出産ボーナスを支給する」という。一人っ子政策で知られた中国は、いまでは育児サービスや減税などの政策により、夫婦あたり3人の子供を産むよう奨励している。 このような政策で、はたして人口激減を回避できるのだろうか。 既存の政策は、専業主婦を利する傾向にある。ヨーロッパ全体では、現金給付(出産給付金、所得税控除など)は所得に応じておこなわれることが多く、より貧しい世帯に向けられるようになっている。 シンガポールでは、親は一時金を受け取ることができるが、これは貧しい世帯では手の届かない住宅保証金を支払うために消えてしまう。 ノルウェーでは、女性は産後、1年近くの休暇を与えられ、国から妊娠前の賃金の100%が給付される。これに加えて、さまざまな育児ケアも受けることができる。 マクロンの「再軍備」以前から、フランスは家族計画に巨額の投資をおこなってきた。2000年以来、同国はGDPの3.5~4%もの額を補助金、サービス、減税などの出生率向上のための施策に投じてきた。これはOECDに属する最も豊かな国々のなかでも最大の額だ。それでも、2022年の出生率は第二次世界大戦後最低を記録してしまった。 韓国でも、その支出とは裏腹に、出生率向上の気配はまったくない。何十億ドルもの投資によって、生まれる子供の数がたった1人でも増えるという研究は、どの信頼できるジャーナルにも見当たらない。 研究者によれば、北欧諸国については、育休と手厚い育児ケアを組み合わせた政策によって、出生率がわずかに向上したことがあったという。1980年代、政府関係者らは、社会が働く母親たちにとって暮らしやすいように変化していくにつれて、こうした平等主義の政策の影響は増大していくだろうと考えていた。 だが、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンで1980年に子供を産んだ女性の数は、その10年前よりも少なかったのである。政策は実際には、その時点ではなく、将来親になる女性たちの期待には応えていた。ところが、手厚い援助があたりまえのものになると、より多くの出生のためにさらなる援助が期待されるようになった。 社会を再構築しようとする政策が、逆効果になることもある。OECD諸国では、出産休暇の延長がかえって初産年齢を引き上げ、親が生涯に産む子供の数をも減らしてしまった。休暇の期間が長くなるほど、職場での印象が悪くなってしまうからだろう。 また、ヘテロセクシュアルのカップルで男性が育休を取得したケースでは、次の子供を作ることが少なくなるという。男性たちが思っていたよりも育児に向いていないと自覚してしまったがゆえかもしれない。