個人投資家に人気があるオプション。戦略なきオプショントレードはギャンブルになりがち!? 取引成功のカギはどこにある?
●個人投資家に人気があるオプショントレードに潜むリスクとは? オプションは、リスクは高いけれど高いリターンも見込める金融商品として、アメリカなどでは個人投資家に人気があります。しかし、オプショントレードをもし行うなら、それに伴ういくつかの大きなリスクについて、事前によく把握しておいた方がいいでしょう。 特にオプションには満期日があることなどにより、その価値の変動には直感的に理解することが難しい点があり、これは多くの初心者にとって注意すべき要素と言えます。 今回は、オプショントレードに伴うリスクと、なぜこれが過剰なリスクを取っているとみなされるのか、また、オプショントレードを成功させるためのカギは何かといったことなどについて解説したいと思います。 ●オプションの原資産である株式の価格が、自分の予想通りに動いても利益が得られるとは限らない!? オプションとは、ある原資産を将来のある期日(満期日)までにあらかじめ決められた価格で「買う権利」あるいは「売る権利」を売買する金融商品です。原資産になるものには個別株だけでなく、株価指数、為替、商品(コモディティ)など、さまざまなものがあります。 オプショントレードの最大の難点の1つは、オプション価格には満期日までの時間に左右される側面と、原資産価格の変化に左右される側面の両方があることです。 通常の株式取引とは異なり、オプション価格は「時間的価値」と「インプライド・ボラティリティ」(※)に強く依存します。 (※編集部注:「インプライド・ボラティリティ」とは、市場で取引されている実際のオプション価格から逆算して導き出される原資産のボラティリティ(変動率)のこと) このため、自分が取引しているオプションの原資産である株式の価格が、自分の予想した方向に動いたとしても、必ずしも利益が得られるとは限らないのです。特に満期日が近づくと、時間的価値が急速に減少し、思わぬ損失を被るリスクが高まります。 この複雑さゆえに、投資家はオプションの値動きの「直感的な理解」がしにくく、結果として、取引のリスクやポジションの持続可能性を見誤りがちです。オプションを取引する際には、原資産となる株価の予測だけでなく、ボラティリティや時間経過の影響も考慮しなければならないため、高度な知識と経験が必要なのです。 ●オプショントレード成功のカギ。それは明確なカタリストの存在だ オプショントレードを成功させるには、明確で具体的なカタリスト(価格を動かす要因)が必要です。 通常の株取引では、長期的な視点で企業の成長や経済全体の動向を考え、長期投資に徹することが可能です。この連載でも株式の長期投資をずっと推奨してきました。 [長期投資に関する参考記事] ●短期的な株価下落に恐怖して株を売ってはいけない。長期投資で「複利の力」を最大限に活かし、雪だるま式に資産を増加させるために必要なことは? ●テクノロジー株の調整は、追加投資のチャンス! AIへの重すぎる投資は長期的に正しい投資。短期の見方で株が売られれば、ピックアップできる ●アップルやアマゾンの長期戦略を正しく認識できれば、短期で下げたところを自信を持って買える! 大劣勢のバイデンが大統領選から下りないのは自分のエゴ しかし、必ず満期日というものがやってくるオプショントレードでは、長期投資はあり得ません。 そのため、オプショントレードでは、特定のイベントや決算発表など、短期的に価格を大きく動かすと思える要因を見極める必要があります。これに失敗すると、期待した価格変動が起こらず、時間だけが経過し、満期日が近づいていって、オプションの価値がゼロになるリスクが高まります。 ●オプショントレードは機関投資家やプロトレーダーが主に行っている。個人投資家の優位性(エッジ)は小さい オプショントレードは機関投資家やプロのトレーダーが主に取引を行っているため、個人投資家が優位性(エッジ)を持つのは非常に難しいのが現実です。 たとえば、機関投資家は高度なアルゴリズムやデータ分析、専門のオプション戦略を駆使しているため、相場の動きをより正確に予測し、リスク管理を行うことができます。 これに対して、個人投資家はこのようなリソースを持っておらず、特に短期的なオプショントレードにおいて勝てる可能性は低くなります。 ●正しい戦略を持たないオプショントレードはギャンブルになりがち。投資とギャンブルの違いとは? オプショントレードは、正しい戦略を持たない場合、ギャンブルと同じように「大きく稼ぐか、すべてを失うか」の博打的な取引となりがちです。 オプショントレードは、株式の長期投資とは異なり、リスクとリターンのバランスを慎重に取るよりも、短期的に大きな利益を狙って過剰にリスクを取ることが一般的です。こうしたアプローチは、投資というよりも「運を試す」という点で、投資の本質から外れています。 投資は本来、「忍耐」と「自分の優位性(エッジ)の理解」に基づいて行うものです。投資家は、自分の知識や分析に基づいた予測がどの程度のリスクを許容するかを見極め、その範囲内で取引を行うべきです。 オプショントレードのようなハイリスク・ハイリターンの取引を頻繁に行えば、自分のリスク許容度を超え、自分の資産に大きな打撃を受ける危険性があります。 ●結論──オプショントレードには高度な知識とリスク管理が必要。個人投資家が「投資」の範疇で取引を行うのは難しい オプションは、高度な知識とリスク管理を必要とする金融商品であり、個人投資家が「投資」の範疇で取引を行うのは非常に難しいと言えます。 特にオプションにおける満期日の存在や、オプション価格の変動要因をよくわからないまま取引していると、思わぬ損失を被る可能性が高いでしょう。そして、カタリストを見極める力や戦略が欠如したままで取引すれば、ギャンブルと同じようなリスクを伴います。 もし、オプションを取引したいのであれば、自分のエッジをしっかりと理解し、そのエッジによってどれほどのリスクを許容できるかを見極めることが重要です。 無理なリスクを取ることなく、堅実な投資アプローチを心掛けることで、投資は「ギャンブル」ではなく「戦略的な資産運用」にすることができるのです。 ●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
ポール・サイ
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