「女性らしさ」の呪縛から解き放たれ、共に過ごす食事の時間。ふたりの幸せな日常を描く『作りたい女と食べたい女』
だからずっと探してたんだ 一緒におなべをからっぽにしてくれるひとを
これは『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ/KADOKAWA)で綴られた、主人公のモノローグだ。なんて幸せに満ちあふれた言葉だろう。 「つくたべ」の愛称で親しまれる本作は、TVドラマがNHK総合にて第2シーズンまで制作され累計発行部数も80万部を超えるなど、まさに人気沸騰中。マンションの「お隣のお隣さん」である野本さんと春日さんが食事を通して親睦を深めつつ、お互いがかけがえのない存在になっていく様子を描いてゆく。
デカ盛りや大量といった豪快なメニューを作りたいと常々考えている、料理が趣味の野本さん。しかし小食ゆえに自分で料理を消化できないことから「誰かに食べてもらいたい」と悩み続けていた。 そんなとき「お隣のお隣さん」である春日さんが、ひとりで複数人前のファストフードをたいらげてしまうほどの食べっぷりの持ち主であることが判明する。
思わず大盛りごはんをつくってしまった日、野本さんは勇気をだして春日さんを夕飯に誘ってみることに…。こうして、「思いっきり好きな料理を作りたい女」野本さんと「おいしいご飯をたくさん食べたい女」春日さんの交流が始まった。 学生と呼ばれる時代を終えると、交友関係を新たに広げることがいかに困難なことか、わたしたちは知っている。学生時代は画一的に感じられたライフスタイルやお金の価値観、趣味嗜好がだんだんと細分化されてくるからだ。仕事のために所在地を選ぶ生活であれば、地元の顔見知りたちとも会えなくなってしまう。 だからこそ、ご近所さんである野本さんと春日さんが交流を重ねる様子はほほえましくもあり、羨ましい。「作りたい」「食べたい」のピースがかっちりとハマり、気を許せる関係を続けられることの尊さ。理解しあえる存在を得たふたりからは多幸感があふれている。 料理は生きていくためのスキル・やらなくてはいけない毎日のタスク、と思うことも少なくない中、誰かといっしょだからもっと楽しくなる側面もあるんだ、とこの作品を読んで実感させられた。