「経営は成功するようにできている」松下幸之助が一貫して説き続けた誰にでも実践できる成功の秘訣
貧困、小学校中退、病弱など不遇な生い立ちでありながら、経営者として数々の危機を乗り越え、透徹した見方・考え方で成功を収めた松下幸之助。PHP理念経営研究センター首席研究員の川上恒雄さんは「雨が降れば傘をさすように、当たり前のことを当たり前にする『自然の理法』こそ、経営を成功させる秘訣だと松下幸之助は説いていた」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、川上恒雄『松下幸之助の死生観 成功の根源を探る』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。 ■成功の秘訣は「雨が降れば傘をさすこと」 経営は人間の営みである。しかし幸之助は、人知のみに頼る経営は、仮に短期的に成功しても、長期的には衰退する可能性が高いと考えた。「自然の理法」の前では、人知ははかないものであるとみていたからだ。だから経営は「自然の理法」に即すべきだというのだが、理法についてそれ自体が何か、幸之助自身は詳細な説明を与えていない。 1960年頃、新聞記者に成功の秘訣を尋ねられた際、次のように答えたという。 「『おまえはどうして今日そう成功したのか』という質問を最近、各方面でされるんであります。(中略)つい先ほども、新聞記者諸君から同じような質問を受けたんであります。『松下さん、あんたは非常に成功したと思うが、あんたの成功はどういうところにあったんか、ひとつ話してくれ』ということでありました。私はそれに対しまして、こういう答えをしたんであります。 『ぼくの経営方針というものは、まあ天地自然の法によるんだ』。すると、『天地自然の法によるというような、きみ、むずかしいこと言うな。具体的に言うとどういうことか』と、こういう質問でありますので、『具体的に言うと、雨が降れば傘をさすことだ』と、こういう話をしたんであります。それはどうも、人をおちょくるような話ではないかということであったんでありますが、自分はそういうことを天地自然の法という表現を使ったのであります」 ■損失が膨らんだり黒字倒産する理由は何か 幸之助はよほどこのエピソードが気に入っているのか、4年後の1964年の講演でも次のような話をしている。 「先般も新聞社の方々が見えまして、私に、『あなたの会社は急速に発展した。どういうわけでそうなったのか、その秘訣があればひとつ語ってくれないか』という質問がございました。そこで、『秘訣というとむずかしいが、皆さんも何か記事になさるんであれば、まあ話しましょう』と言うて、私の経営はひと言にしていうと、天地自然の法にもとづくということを言ったのです。 すると、『天地自然の法にもとづくというだけでは記事にならん。それはもっと具体的にいえばどういうことか』ということでしたので、『具体的にいうと、雨が降れば傘をさすということです』という話をしたんであります」 「雨が降れば傘をさす」とは、外で雨に降られたら濡れないように傘をさすのが一般的であるように、当然のことを当然のこととして行なうことを表現している。さらに幸之助によれば、こうした行為は当然なすべきことなのだから、頭を使うようなむずかしいものではないという。 ところがなぜか経営や商売になると、むずかしく事を考え、当たり前のことを当たり前にやらないケースがみられると指摘する。たとえば、商品の販売価格を原価や仕入値よりも高く設定する、販売した代金を回収する――といったことを商売ではごく自然に行なうはずなのに、商品を売れば売るほど損失が膨らんだり、黒字倒産をしたりする会社が珍しくないというのだ。