世界卓球、女子団体で起きた2つの衝撃。中国一強を終わらせる台風の目「インド」と「張本美和」
最強中国は、間違いなく「敵は日本だけではない」と認識したはず
ムカルジーがアンチラバーの効能をうまく使って勝ち切ったことは事実。 アンチラバープッシュはもちろん、バックカットの際にも「前にいる」「台の近くにいる」ことが多く、いわゆる『前陣型』だ。ここまで前でさばくと、フォアの攻撃の打点も速くなる。そこをしっかり打てるようになるには、相当な練習を積まなければいけない。 ムカルジーは「フォアブロック」も「フォアドライブ」も完璧だった。ムカルジーだけではない。インドの選手全員が徹底的に練習をやり込んでいるとわかる精度の高さだった。魔法の源。それは、徹底的にやり込まれた練習量だと感じさせた。 事実、第3試合ではインドの世界ランク49位スレージャ・アクラが、今度は世界ランク2位の中国の王ゲイ迪に3-0のストレートで完勝している。 団体戦は2-3でかろうじて中国が勝利した。 しかし、インド勢によるジャイアントキリングの2連発を見た夜に、最強中国は、間違いなく「敵は日本だけではない」と認識したはずだ。
もう一つの台風の目。「張本美和の衝撃」
もう一つの台風の目となる可能性は、やはり張本美和の鮮烈な世界卓球デビューだろう。 世界卓球2024・女子団体戦、決勝戦。日本対中国。1試合目に登場した張本美和は、さすがに緊張しているように見えた。孫穎莎に0―3でアッサリと敗れてしまう。しかし、5番手での対決となった張本美和VS陳夢。ここで“場慣れ”した張本美和が、本来の力を発揮することになる。 15歳の現時点で、本来の力を出した張本美和と世界ランク3位中国の陳夢。そこには「どれくらいの差」があったのか。 1ゲーム目。巻き込みサーブをフォア前に落として攻めていく張本。孫戦ではやや固かったバックミートの打ち合いも、張本本来の「美しく連動する動き」が見え始める。4-2。序盤から、あの陳夢を相手に優勢に試合を進める。9-3からは切り返しのラリーで圧倒。そのままこのゲームを勝ち切る。 2ゲーム目。今度は、巻き込みサーブに、順切りのロングサーブを交えて陳夢を翻弄していく。陳夢も必死だ。中盤はツッツキで張本を動かしてから、バックの深いところへドライブを叩き込む。5―8。この展開が多くなり、このゲームは陳夢が勝利。 3ゲーム目。フォア前、バック前、深い所。あの手この手で、陳夢の意地が張本を翻弄していく。5-6から張本が、ツッツキで振り回される展開にもうまく対応。6-6とする。張本にはもう、引けを取っている様子は、ない。 8-8からは強烈なスピードで陳夢が切り替えしてのバックミートが決まる。この瞬間、中国の監督はベンチを立ちあがり、眉間にしわを寄せながら大きくガッツポーズ。最強中国を、張本が本気にさせている。8-9となったところで、日本がタイムアウトを取った。 タイムアウト明け。8-10からは、陳夢が体ごと倒れ込むようにして、決定打となるフォアドライブをたたき込み、このセットを勝ち切る。絶対に決めてやるという「本気の中国」が垣間見られる。 4ゲーム目。陳夢は、序盤から張本を、1本、また1本と、かなり丁寧に追い詰めていく。しかし、張本も食い下がる。バックフリックをうまく使い、4-4。 この“確勝モード”に入った中国に、再び食い下がっているのは正真正銘15歳である。6―5からは、巻き込みの下回転サーブが決まって、7-5とリードを取る。窮地に追い込まれた陳夢。しかしここで、高速ロングサーブでサーブスエース。7-6。もう一本同じサーブ。7-7。中国は後半になると勝負強さが増していく。 「見つけた」。そう思ったのか、ここから陳夢はロングサーブラッシュ。一気に試合を決めてしまった。後半のロングサーブラッシュは、あまりにも見事だった。ただ、こういった一気に決めにいける余裕は「経験値」から生まれる部分もあるはず。 張本美和に、その経験値が備われば。そんな予感を抱かせる試合だった。