世界卓球、女子団体で起きた2つの衝撃。中国一強を終わらせる台風の目「インド」と「張本美和」
“最強”中国を翻弄した「ムカルジーの魔法」
ムカルジーのラケットの使い方だが、まず、サーブの際に反転(ひっくり返す)している。孫穎莎を3-1で破った試合もそうだ。 1ゲーム目。バックサーブを出す時にラケットを反転し、裏ソフトラバーで切る。出だしから翻弄して、2-1。逆に、孫がサーブを持つ場面ではフォアサーブからの3球目攻撃で2-2に。孫のいつもの王道パターンにムカルジーがまったく対応できない姿も見られる。 4-5から5-5に追いつく場面あたりから「ムカルジーの魔法」がかかり始める。バックカット、バッカット、バックプッシュ。3連発。これらはすべてアンチラバーによるものだ。孫のボールが浮いたところを回り込んで強打。完璧な得点パターンが出来上がっている。 8-10から追いつく場面もすごい。アンチラバーで浮いてしまったボールを、孫が打ちミスで9-10。あの孫が、チャンスボールを打ちミスしている。アンチでのプッシュで流れをつかみ、11-10。ジュースに入り、またアンチでのプッシュ、続いてアンチでのストップ。孫を完璧に左右に振ることに成功している。12-10でムカルジーが勝利。
あの最強女王が追い込まれていることがよくわかる光景
2ゲーム目。孫にエンジンがかかる。猛攻撃を開始し、0-6と一気に突き放して決めにいく。ようやく孫らしさが全開になる。このゲームは2-11で孫が勝利となったが、後半に入ると、簡単に打って入る時と、簡単に打てそうで結果的にミスになる時の差が激しい印象も残した。そしてその展開で、女王の孫が打ちミスをしているのは、ほぼすべて、アンチラバーのボールだった。 3ゲーム目。序盤は孫が優勢に試合を運ぶも、ムカルジーのアンチラバーのカットを孫は持ち上げ気味に打つが空振り。6-9。もう一度同じ展開に。7-9。このあたりはもう、孫はほとんど「粒打ちをさせられている」光景だ。その後も、ムカルジーのアンチカットが一発。それを孫がしのいだところを、今度は回り込んで裏ラバーでの強打。9-8となったところで孫がタイムアウトを取った。 タイムアウト明け。9-9からは、アンチを警戒する孫に、あえてアンチを使わずに、フォアハンドでの強打を2発放つムカルジー。この「やり方をコロコロ変える」のも、アンチへの警戒心が高まっているからこそできること。これもまた、「ムカルジーの魔法」の一つだ。 孫が渾身のバックドライブを放つも、アンチで止められる。そのまま体勢を崩したところに打ち込まれて、10-9。あの最強女王が追い込まれていることがよくわかる光景だ。 ジュース。アンチでのブロックからのカウンターフォアミートが、バックのストレートに面白いように抜けていく。恐ろしい光景だ。フォアブロックまで決まったムカルジーが13-11でこのゲームを勝ち切る。 4ゲーム目。女王、孫も必死だ。ここも4-4という一進一退の攻防から開始。孫は何度も自身が最も得意とするフォアドライブをたたき込んでいく。しかし、ムカルジーのしのぎ方も凄い。アンチだけではなく、フォアブロックも完璧に仕上がっている。このあたり、用具ばかりに目がいきがちだが、ムカルジーは膨大な練習量を積んできていることが感じられる。 アンチがくると思って待つ。いきなり回り込んで強打。これで9―6。ムカルジーの「逆を突く世界観」が際立つ。再びアンチカットで、10―6と追い込む。攻める孫、アンチラバーで擦り上げるような打ち方で凌ぎまくるムカルジー。しのぎ切ったムカルジーが11-6で勝利。 “ムカルジーの魔法”が完結した瞬間だった。