世界卓球、女子団体で起きた2つの衝撃。中国一強を終わらせる台風の目「インド」と「張本美和」
韓国の釜山で2月に行われた世界卓球2024。なかでも女子団体で繰り広げられた熱戦からは、パリ五輪で「台風の目」となり得る存在がおぼろげながら見えてきた。1つ目は「インド旋風」。そして2つ目は我らが日本の「張本美和」。“最強”中国に警戒心を抱かせる、2つの台風の目をひも解く。 (文=本島修司、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
大会初日の衝撃。ムカルジーが世界ランク1位を撃破
世界卓球2024・団体戦。女子団体は、初日から波乱が起きた。 “最強”中国は、グループリーグ初戦でインドと対戦。世界ランキング1位のエース・孫穎莎がインドの世界ランク155位、アイヒカ・ムカルジーに完敗したのだ。このジャイアントキリングは世界中に衝撃が走った。 一躍、「時の人」となったムカルジー。その勝利の源は、独特の変則スタイルを生み出すラバーにある。 アンチラバー。1960年代に生み落とされ、1970年代~80年代にかけて一世を風靡したこの「一枚のゴム」が、令和の時代において再び世界の舞台に魔法をかけた。
アンチラバーとは何か。ひと言で表現すると…
アンチラバーとは、外見は通常の裏ソフトラバーと同じ。表面に凹凸がなくツルツルしている。ここがポイントとなる。見た目は、ほぼ裏ソフトラバーだ。 しかし、性能のほうは裏ソフトラバーとは真逆。むしろ粒高ラバーに近い。 摩擦がかからない。ひと言で表現すると「ツルツル」と滑る感じがある。これにより無回転のボールを中心に、まったく違うボールを生み出せる。 1960年代~80年代にかけてこのラバーが流行した当時は、ラバーの「カラー指定」がなかった。1本のラケットに対し、赤と赤でもOK。黒と黒でもOKだった。見た目が裏ラバーと同じ。しかし、飛び出してくるボールはツブ高ラバーに近く、まったく違うものだ。見た目と色が同じであれば、ラケットを反転して打てばどちらのラバーかまったくわからない。これにより、無類の強さを発揮した。 その後、ラバーの色のル-ル改正があり、一本のラケットでは赤と黒、つまり別な色で構成するというルールに統一されることになる。その頃からアンチラバーの選手は減っていった。 現在は、カラーラバー(水色・黄緑色・紫色・ピンク色)のラバーも認められている。ただ、これはあくまでファッション性のものであり、性能が変わることはない。このカラーラバーを使用する際にも、逆の面は黒にしなければいけないルール。 この点からも、1本のラケットでラバーが同じ色はダメというルールはいまなお健在。それほどまでに「見た目が同じラバーを2枚張ってくると、アンチラバーが生み出すボールをまったく取れなかった過去」があったということだ。 今もラバ-の色は、フォアとバックで違わなければいけない。その文化を生んだ根源こそ、アンチラバーという存在だった。