なぜ“史上最強”積水化学は負けたのか。新谷仁美が話すクイーンズ駅伝の敗因と、支える側の意思
クイーンズ駅伝2024。全6区間の走者全員が日本代表経験者という、豪華メンバーを揃えた積水化学は“史上最強”とも言われていた。戦前予想では“一強”とも言われ、前年女王の連覇がほぼ確実視されたレース。しかし、6区アンカーの森智香子は、JP日本郵政グループに遅れること27秒後、2位でゴールテープを切った。なぜ積水化学は連覇を逃したのか? (文=守本和宏、写真提供=ナノ・アソシエーション)
“予想外に重かった”2度目の連覇挑戦への重圧
連覇だけを目指し、自分たちにはその力があると信じ、全力を尽くして走り切った後。 笑顔なくゴールテープを切った森は、出迎えた山本有真に寄り掛かる。 全身から力が抜けた森の体は、“予想外に重かった”のだろう。 一度山本の背中は、後ろに傾く。 しかし、山本はそれを支え、その後力強く、優しい両手で森を抱きしめた。 そう、予想外に重かったのだ。2度目の連覇挑戦への重圧は。思った以上に。
間違いなく6人に入るのが一番難しいチーム
昨年のクイーンズ駅伝優勝後、積水化学の楠莉奈(旧姓:鍋島/2017年世界陸上代表)は勝利の喜びとともに、こう思ったそうだ。 「見てて安心できる強いチームだなと思いつつ、“今年のメンバー、来年もおるやん”って。1年前からメンバー争いの激しさが予想できてしまう、間違いなく6人に入るのが一番難しいチーム。選手としては、メンバーに入るのこんなにハードル高かったっけ、っていうのはちょっとありますよ」 陸上人生の中でも、常に駅伝でエース級だった楠をして、そう言わせたチームは、順調に1年で実績を積み重ねた。 昨年、急遽駅伝で1区を走り、その後急速に力をつけた田浦英理歌は、3月の世界クロスカントリー選手権で日本代表入り。それまでケガがちだったが、ウェイトも前年より10キロ以上持ち上げられるようになり、1区をはめるラストピースに成長した。 主力メンバーも、着実に経験を積み重ねていく。パリ五輪に5000m日本代表として出場し、3000m付近まで先頭を走ってみせた山本有真。9月のコペンハーゲンハーフマラソンで自己ベストを更新(1時間09分03秒)した佐藤早也伽。マラソン練習と並行しながら、各大会でコンスタントに結果を出してきた新谷仁美。そして、昨年7月のアジア陸上競技選手権3000mSCで5年ぶりの日本代表選出。今年の日本選手権5000mでは堂々3位で表彰台にのぼるなど、キャリア後半に入ってなお成長を見せる森智香子。 その陣容は、2019ドーハ世界選手権5000m日本代表の木村友香、東京五輪1500m出場の卜部蘭もメンバーに入れない、ハイレベルなラインナップとなった。 加えて、2年前に連覇を狙って達成できなかった学びもあった。前回漂っていた『このままでいいんじゃないか』との雰囲気を払拭するため、野口英盛監督は明確な指標を設けている。 「年間の個人目標とは別で、クイーンズ駅伝は最低でも大会記録更新(2時間12分28秒)、あるいは6人の合計タイムでマラソンの当時の世界記録2時間11分53秒(現在は2時間9分56秒に更新)を切ろうという指標を設けた。それには、去年よりそれぞれが約10秒、速く走る必要がある。ある程度の危機感を持ちつつ、選手みんなが結果を残して、層の厚さが増した感覚はあります」 今年はケガ人も少なく、直前の合宿も手応えは上々。チームは例年、大会1週間前あたりに出走メンバーを決めるが、それよりも早めに担当区間を発表。メンバー選考のストレスを軽減し、大会攻略に意識を向かせた。 やるべきことは、一通りやりきった。「今まで試合でやってきたこと、練習以上の力を発揮する。連覇に向けたプレッシャーも含め、良い力に変えて、自分の力以上のものを出せたら結果はついてくる。鍵は“全員”です」と野口監督が話すように、状況は盤石に思えた。 しかし、結果は2位に終わる。敗れた理由を探すのは、簡単だ。