「警察庁潜入は簡単だった」 国松警察庁長官狙撃事件を自白した秘密工作員の語った犯行の驚くべき一部始終
北朝鮮人民軍バッジの狙い
《なおショルダーバッグの中にはフェデラル社製のホローポイント系357マグナム・ナイクラッド弾を装填(そうてん)したコルト・パイソンと6発の予備弾を入れたクイック・ローダー、サブマシンガンであるKG-9短機関銃を収めていました。 さらにスーツの下に装着したホールスターの左腰ベルトには、不測の事態に備えるバックアップガンとして、スミス&ウェッソンの自動式拳銃(けんじゅう)を入れ、携行していたのです。 これらにくわえて、もう一つこの義挙用に用意したものがありました。パイソン用に自分で製作した「着脱式の銃床」です。これはより安定した射撃を行うため、射撃時の衝撃を肩で受け止められるようにしようと考えて作ったもので、小型の松葉杖のような形状をしています。パイソンの銃把の左右両盤の上端をカットして、三つのボルトを埋め込み、そこに銃床の先端が着脱できるようにしました。素材はアルミ合金ですが、色は濃い灰色に塗装していました。長さは40センチくらいで、これをパイソンに装着すると、長銃身の銃がさらにその2倍ほどの長さになり、遠くから見れば、ライフルと見間違うかもしれません。 またこの日は、常時、警戒にあたる2人の私服警官以外に、アクロシティ東側にある南千住浄水場北西隅の場所、長官が住むEポートからすれば、北東角側になる隅田川沿いにも警戒要員が1人立っていることを、待機状態に入る前のハヤシが無線で伝えてきました。しかし大規模な警備強化が行われた様子はなく、狙撃決行には特に障害にならないと判断し、そのまま計画を続行しました。 Bポート東側路上から長官公用車が動き出すのを見て、私はAポートの地下駐輪場に向かい、自転車をひいて、南口の階段の手前で地上に出ました。そこから、Fポート東南角の植え込みあたりの狙撃地点に移り、臨戦態勢に入ったのです。足元に、北朝鮮人民軍記章(バッジ)を置き、エントランス・ホールの方に向かって、狙撃地点から3~4メートル離れた辺りに韓国の10ウォン硬貨を放り投げました。これは捜査を攪乱(かくらん)することが狙(ねら)いでした。 この北朝鮮のバッジは、死亡した斎藤雅夫君のツテで、在日韓国人のTという男と会い、Tから、その知人だった韓国安企部(国家安全企画部)の人間を紹介してもらって、入手したものです。 当初は、北朝鮮製のカラシニコフなどの銃器類が手に入らないかと思い、接触したのですが、「北のもので、持ち出せるのは、記章か帽子くらい」だというので、とりあえずバッジを、相手が欲しがった私の拳銃、コルト・ムスタング・ポケットライトと交換する形で譲り受けたのです。 国松長官の出勤時間が近づくと、私はバッグからコルト・パイソンを取り出し、銃床を取り付けました。それをコートの内側に隠し持ち、長官の出勤を待ち構えたのです》