開幕迫る!コンプソンズ最新作『ビッグ虚無』。脚本家・金子鈴幸にインタビュー 「今、誰しもが抱える無力感に向き合いたい」
「あの頃」を映すサブカルと文学の力を借りて、社会に一石を投じる
――コンプソンズの作品には、文学作品の要素や、サブカルチャーに関するたくさんの固有名詞が出てきます。これらは、金子さんにとってどのような存在なのでしょうか? 金子 文学は、僕が一番影響を受けてきたものです。中高生時代から、僕は太宰治や大江健三郎の小説のほか、ドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』などの海外作品を読むことで、自分の内面の変化を感じてきました。一方、サブカルは……、僕にとっての「思い出」ですね。 ――「思い出」、ですか。 金子 サブカルは、今やほとんどメインカルチャーに吸収されてしまって、存在しないも同然だと思うんです。だからこそ、そのカルチャーが存在したほんの一時代を映す鏡にもなり得るのかなと。初期の作品では特に、「誰がわかるんだ」っていうサブカル用語をセリフ中に散りばめました。例えば、R18漫画を読んでいるとなんだかインテリっぽいみたいな感覚とか、平成のアイドルブームとか……。ふと思い返すと「そういえば、あれ何だったんだろう?」って、自分をその時代につなげる装置になると考えています。 ――コンプソンズの作品は、政治的内容を含んだ時事ネタのパロディーなども特徴的です。物語の題材を選ぶ際に、大切にしていることはありますか? 金子 「これは間違っている」と思ったことを、明確にセリフに反映することを心がけています。一つ自信を持てたのが、当時作り手もメディアもほとんど取り上げていなかった芸能界の性加害問題を扱った#10『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』(2022)を上演できたことです。僕は、世の中でうやむやになっている問題を「どう思う?」って観客のみなさんに投げかけてみたいんです。最近は観てくれる方も増えてきて、物語る責任のようなものを感じはじめているのですが、今後もこの部分はブレずにいきたいと思っています。
演劇を観て「傷つきたい」。そんな衝動に従って、時代を描く
――#8『WATCH THE WATCHMEN(we put on masks)』(2020)では、ご自身が演じる役のセリフに「最近、演劇や映画を見ても、心が動かない」と綴られていたと思います。コロナ禍も重なり、金子さんにとって大変苦しい時期だったのではないかと思いますが、どのようなことを考えて日々を過ごされていたのでしょうか? 金子 コロナ禍が始まる少し前から、僕は完全に作品づくりに行き詰っていました。感染拡大が本格化してどこにも行けなくて、書くことに向き合わざるを得ないから「もう無理だ、無理だ、無理だ」って、さらに自分を追い詰めてしまったんです。で、極限まで追い詰めた結果、急に「あれっ、一体何がダメだったんだろう?別に終演後は誰も覚えちゃいないんだから、やっちゃえばいいじゃん」と、開き直ることができました(笑)。 ――悩んだ末に一皮むけた、という感覚なのでしょうか。 金子 #10『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』を書き終えたときは、まさにそういう感覚でした。#10の終演後、お客さまの反応を見て、「よかった。ちゃんと伝わった」とひと安心したのを覚えています。まあ、書けていると満足しちゃった時点で負けだと思うので、今後も適度な開き直りと、「これ伝わるのか?」と悩むことを繰り返しながら丁寧に作品をつくっていきます。 ――そして、続く#11『愛について語るときは静かにしてくれ』(2023)は、第 68 回岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選出されました。ノミネートされたときの想いを教えてください。 金子 内心、「これが評価してもらえるのか」と意外でした。#10が執筆期間の一年間で考えたこと全てを凝縮したものなら、#11は肩の力を抜いて、やりたいことを好き勝手にやったという感覚だったので。また、ずっと作劇の参考にしてきた岸田國士戯曲賞の選評で自分たちの作品について書いてもらい、僕のなかで「コンプソンズらしさ」がちょっとだけ明確になりました。今までそういった「らしさ」から逃げつづけてきたけれど、やっと向き合う勇気が持てた気がします。 ――今後はどのような作品づくりをしていきたいですか? 金子 お客さまの期待に応えるというより、むしろ客席に向かって爆弾を投げつける気持ちで作品を書いていきたいです。僕は演劇を観るとき、なんだか「傷つきたい」って思いがあるんです。こういう表現ってご時世柄どうなのかなとは思いつつも、せっかく劇場に足を運ぶなら、観客のみなさんには少し手傷を負って帰っていただきたい。そう思っています。