開幕迫る!コンプソンズ最新作『ビッグ虚無』。脚本家・金子鈴幸にインタビュー 「今、誰しもが抱える無力感に向き合いたい」
第68回岸田國士戯曲賞の最終候補作品として、#11『愛について語るときは静かにしてくれ』(2023)がノミネートされ、一躍注目の的となった劇団「コンプソンズ」。俳優・プロデューサーの星野花菜里とともに劇団の中核を担うのは、脚本家としてはもちろん、俳優としても活躍の場を広げる金子鈴幸だ。ある実在の出来事を題材に、事件から事件、あるいは現実から虚構を縦横無尽に渡り歩く金子の作風は、もはやコンプソンズの代名詞ともいえる。 【全ての写真】金子鈴幸の撮り下ろしカット そんな「コンプソンズらしさ」と金子が向き合いながら描くのは、10月16日から公開となる新作『ビッグ虚無』。鋭い切り口で時代を描く金子が考える「虚無」とは何か?存分に語ってもらった。
映画を撮っていた学生時代。ひょんなことから作劇に触れた
――金子さんは大学時代、はじめから演劇をやりたい学生だったのですか? 金子鈴幸(以下、金子) いえ。もともと大学では駿大映画製作研究部というサークルで映画を撮っていました。それこそ、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)にも作品を応募したことがありましたが、全然ダメでしたね(笑)。そんな感じだったので、実はコンプソンズが母体としている実験劇場にはあまり顔を出してなかったんです。ですが新2年生のとき、星野から「新入生歓迎公演で脚本を書ける人がいなくて」と声をかけられて、初めて作劇を試みました。で、また星野に言われて、コンプソンズ旗揚げのきっかけになった卒業公演でも脚本を書くことになり……。「演劇とは、卒業とともにおさらばだ」と思っていたのに、流されるままにやってみたら、なんだか映画を撮っていたときよりも観た人が喜んでくれたんです。それでなんとなく始めて、今に至ります。 ――金子さんの作品づくりのルーツは、映画だったのですね。話は変わりますが、「コンプソンズ」って、変わった劇団名ですよね。 金子 ウィリアム・フォークナーの小説『響きと怒り』に出てくる、没落していく家族「コンプソン家」から取りました。 ――メンバー全員で背負う劇団名に落ちぶれていく一家の名前を使うとは、なかなかのブラックユーモアですね。 金子 当時の心境として、「就職もせずに演劇をやるなんて、自ら没落するようなものだ」みたいな心境だったんだと思います(笑)。この小説は、シーンが断片的に描かれていてとても難解なのですが、なぜか読んでいるうちにパズルのピースが合わさり、ラストには「こういうことだったのか!」と納得させられるんです。無造作に散りばめられた情報が無理やりつながっていくような作風は、今のコンプソンズ作品にも大きく影響をもたらしていると思います。