心が死んで急に書けなくなった――。小説家・朱野帰子さんが直面した「急な売れ」と、「技術同人誌」を出す理由
「昔の私が知りたかったことを、わかりやすく伝えたくて」 ――mochikoAsTechさん(サークル名:mochikoAsTech) 「普段はIT企業に勤めていて、エンジニアばかりの部署の中で“開発者のための説明書を書く”仕事をしています。APIと呼ばれるものを使うときに、どうやって使ったらいいか、どういう仕様なのかがわかるように、仕様の説明書を書いて提供するという仕事ですね。最新刊では、そうした技術的な説明文を書く“テクニカルライティング”のコツを紹介しています。 以前インフラエンジニアをしていたとき、本を読んでも説明していることがよくわからなかったんです。もっと簡単なところから教えてほしい、と思ったんですよね。今こうして色々わかるようになってきて、“あのときの自分のために書いてあげよう”と思って書き始めました。本を読んだ方からは“優しい先輩に隣で教わってるみたいです”という感想をいただけることが多いのですが、一般的な技術書よりは文体も柔らかい、ちょっとユーモアも交えた口調するようにしています」
「名誉」よりも「自由」な同人誌を選ぶ
ちなみに、mochikoAsTechさんは技術書典で販売した本がとても好評で、いろいろな出版社から出版オファーの依頼がきたそうです。ですが、mochikoAsTechさんはこう振り返ります。 「私も商業出版には憧れもあったのですが、“それって何が嬉しいんだっけ?”ということを冷静に考えてみようと思って。いろんな編集者さんにも話を聞いてみたところ、私のケースだと実は商業出版も同人誌もあまり変わらない、というところに行き着いたんです。じゃあ、何が一番違うかといったら“名誉ですね”と編集者さんに言われて。確かに、本屋さんに並んだら嬉しいし、親も喜ぶと思います。でも色々考えた末に、“名誉”なのか、“自分で自由にやりたいのか”でいうと、自由の方がいいなと思って、同人誌という形でずっと出しています」