心が死んで急に書けなくなった――。小説家・朱野帰子さんが直面した「急な売れ」と、「技術同人誌」を出す理由
「これいいですね」と言ってくれる人は、きっと現れる
今でも同人誌でのみ執筆活動を続けるmochikoAsTechさんは、「本を出してみたいけれど迷っている」という人に向けて、こんなことも教えてくれました。 「作ってみたいけれど、誰1人見向きもしてくれなかったらどうしよう……という不安があるかもしれません。でも、技術書典のイベントには何万人という人が来場します。100人だったら誰にも刺さらなくても、1万人いたら5~10人ぐらい“これいいですね”って言ってくれる人が現れる。母数が大きいことによって、誰かにちゃんと届けられるんです。自己満足で終わりじゃなくて“読んでもらえるという喜び”までたどり着けるのは、このイベントの良いところだと思っています」 「1万人いたら5~10人ぐらい“これいいですね”って言ってくれる人が現れる」――。なんとも勇気が出る言葉です。実際、大勢の人が訪れ、会場の隅から隅までお客さんが通り、見てくれるので、誰かには必ず届くんですよね。いつか本を出してみたい、と思っているみなさん、受け取ってくれる人や共感してくれる仲間はたくさんいますよ……!
小説家・朱野帰子さんが「技術同人誌」を出す理由
さて、ここで商業作家でありながら同人誌デビューした小説家・朱野帰子さん(代表作:『わたし、定時で帰ります。』)に、なぜあえて同人誌を出すことにしたのか、同人誌の魅力は何なのか? についてインタビューをしました。朱野さん曰く、ミドルエイジこそ同人誌に挑戦する意義があるそうで……。 ――朱野さんは商業出版で実績のある作家さんですが、なぜあえて「同人誌」を出したいと思ったんですか? 朱野帰子さん(以下、朱野):作家になる前は、小説サークルに入ったこともないし、同人誌を出したこともない。つまり「商業の世界以外の所で小説を書いたことがない」んです。だから、同人誌マーケットって、書いている人たち、そのコミュニティの人たちがすごく楽しそうで。それが羨ましかったんですよね。 ずっと商業でやってきて、メディアミックスなんかもやっていると、大きな商業システムの中に組み込まれてしまうんです。テレビ局の人や俳優さんはどう思うか? とかも気にしないといけない。ステークホルダーが多すぎて「みんなの期待に応える機械」みたいになってしまって。