イグノーベル賞「股のぞき」研究に見る心理学の作法
「股のぞき」に「嘘つきの頻度」。9月23日に発表された今年のイグノーベル賞では、特に心理学に関する研究が多く選ばれました。一見すると、自分たちでもすぐに研究できそうなテーマですが、実は心理学の巧みな手法が駆使されています。私たちの日常生活にみられる「こころ」の秘密を、心理学者はいかに解き明かすのでしょうか?実験によって「こころ」のはたらきに迫る研究者に聞きました。 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞を両方受賞した人っているの?
“思いつき”を学術的に実験に落とし込む
「人々を笑わせ、考えさせる」研究に与えられるイグノーベル賞は、毎年10分野の研究に贈られます(「物理学賞」など部門名もありますが、後付けと思われるものが多いです)。今年はそのうち5つの研究(※1)が心理学や関連分野の研究でした。
「確かに心理学ではユニークなテーマをとりあげることが多いですね」と語るのは、実験心理学者の田中章浩先生(東京女子大学 現代教養学部 准教授)。「しかし、テーマを思いついたときに、学術的にしっかりした実験に落としこむ過程で研究者の力量が問われます」といいます。「心理学が対象にする『こころ』は直接目で観察することはできません。だからこそ、『こころ』のメカニズムを推測する方法論が整備されてきました。その方法論や考え方の体系を『心理学』と呼びます」
では、実際にどのような考え方で研究をすすめるのか、今年のイグノーベル賞を受賞した「股のぞき」の研究を例に、田中先生に3つのポイントを挙げてもらいました。 立命館大学の東山篤規先生と大阪大学の足立浩平先生によるこの研究では「股のぞきをすると、大きさの恒常性が弱まる」という結論を導き出しました。
(1)背景をよく理解する
田中先生によると「この研究の意義を知るには、『大きさの恒常性』とよばれる現象を知っておく必要があります」。大きさの恒常性とは、遠くのものが小さく目の網膜に映っても、頭のなかで補正して、正しい大きさに戻すはたらきのこと。写真1は、同じ大きさのカラーコーンを2つ並べたものです。画像の大きさとしては、奥のコーンの方が手前の半分しかないのですが、どちらも同じ大きさのコーンだと認識して、そう見えていますよね? 「この研究の興味深いところは、股のぞきをすると、同じ大きさの板であっても遠くのものほど実際より小さく見える、つまり『大きさの恒常性』が崩れることにあります」と田中先生は語ります。股のぞきのように、一見するとヘンテコに見える研究テーマも、その背景を知るととても自然な流れだと分かりますね。