日本で音楽都市を実現するための、音楽文化を「翻訳」する方法
業界団体の結束と「つまらないことば」が行政を動かす
続いてシャピロ、黒鳥社コンテンツディレクターの若林恵、弁護士/ナイトタイムエコノミー推進協議会代表理事の齋藤貴弘による鼎談が行われた。プレゼンを踏まえ、Sound Diplomacyの実例から日本で音楽都市を実現するための論点を整理する時間となった。 2015年の風営法改正に精力的に取り組み、いまだ厳しい規制が残るもののナイトクラブの合法的な24時間営業が可能になる枠組みづくりを進めた齋藤は、その後のナイトタイムエコノミー推進協議会設立の経緯についてこう説明する。 「都市に多角的な価値をつくり出し、どれだけの人が自由に自分らしく生きられるか。そこにどんなコミュニティや文化が生まれ、刺激が加えられるのか。それを考えていくなかで、夜の経済圏に関する価値を発信していく活動を行うこととなりました」 その活動の課題となっているのが、行政やデベロッパーなど「昼の経済圏」に対してアピールする際に発生する、ナイトタイムエコノミー独特の概念や用語の伝わりにくさだという。 シャピロもそれに同意した上で、以下のように語る。 「わたしたち音楽都市をつくろうとする人びとは、良い翻訳者、良いデータアナリストであるべきだと考えています。自治体は『音楽は生活にとってとても大切なんです』といったことばで情に訴えても大抵聞き入れてはくれません。ですので、ときには楽しい音楽の取り組みを、非常につまらないことばに翻訳することも必要です。プロジェクトを進めていくうえで、音楽業界がビジネスとして立派に成り立っていることを理解していない人の前で話さなければならないことがいくらでもあります」 「一方、政府・自治体側から聞こえる不満は『どんな支援を求めているのか不明瞭』ということです。それが支援をしない言い訳に使われています。例えばベルリンにはクラブコミッションという、商工会議所的な集まりがあり、スポークスパーソンがいます。ナイトクラブがどんな価値を生み出しているのかを基準化し長年アピールしてきた結果、猥雑な施設のような扱いだったところから、都市計画のなかにナイトクラブの項目が入るまでに至ったのです」 シャピロたちは、具体的にどんなデータを収集し、政策を実現してきたのだろうか。一例として挙げられたのはアメリカ、アラバマ州にあるハンツビルの事例だ。多くの市民がライブを観るために、隣接する〈カントリーミュージックの聖地〉ナッシュビルへと外出してしまう状況を調査し「毎週50万ドルの喪失がある」と具体的な数値に落とし込んだ。それをきっかけに、8000人規模の野外シアターの設立を実現したのである。 「これまでの音楽業界はデータを使う文化があまりありませんでした。街のマッピングやデータ収集をすることで、もっと多様な提案を行うことができるのです」