J-REITの投資対象の大半を占める「オフィス」特化型の特徴と展望
日本版不動産投資信託(J-REIT)が投資対象とするのは、商業用不動産と呼ばれる賃貸用不動産です。オフィス、マンション、商業・物流施設、ホテルなどのオペレーション型施設など種類は様々です。その中でも今回は、J-REITの投資対象の大半を占めるオフィスに特化する「オフィス特化型」の特徴と投資判断について、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティングの田渕直也さんが解説します。 やさしいJ-REITのはじめ方
都心オフィスはフル稼働、賃料は上昇傾向
J-REITの投資対象不動産のうち最大のウェートを誇るのがオフィスで、全J-REITの保有不動産の46%ほどを占めています。このオフィスに投資するJ-REITのタイプとしては、オフィス特化型のほかに、複合型、総合型がありますが、複合型、総合型はあらためてお話しすることとして、今回はオフィス特化型(以下オフィスリート)に絞って見ていきたいと思います。 オフィスリートは現時点で12銘柄あり、その時価豪額はJ-REIT全体の28%を占めていて、J-REITの中でも代表的なタイプの一つとなっています。 投資対象としてのオフィスには、前回のシリーズでも少し触れましたが、以下のような特徴があります。 ・空室率と賃料水準が景気に左右されやすく、景気動向に敏感 ・立地によって賃料の上昇期待や安定性が大きく異なり、都心好立地物件など人気の高い物件は価格もかなり 高くなる(利回りは低くなる) これを踏まえて、現在のオフィスの投資環境を整理してみましょう。 まず空室率の状況ですが、東京都心のオフィスでは、2010年以降、空室率の低下が続いており、現在は需給ひっ迫の目途とされる5%を大きく下回る状況となっていて、ほぼフル稼働に近い状態といえます。一般に新規募集の賃料水準は、この空室率にやや遅れて変動する傾向があり、2014年以降上昇傾向が続いています。 実際にJ-REITが保有しているオフィスビルの賃料収入は、上記の新規募集賃料にさらに遅れて変動します。すでにオフィスを借りているテナントの場合、新規募集賃料を参考にしながら平均して2~3年程度で賃料が改訂されるので、新規募集賃料の上昇が2~3年かけて顕在化してくるのです。 以上のことから、空室率はここからさらに大きく低下することは考えにくい水準に来ていますが、当面は新規募集賃料の上昇傾向が続くと考えられ、オフィスリートの賃料収入はさらに2~3年後くらいまでは拡大が期待できることになります。一言でいえば、収益環境は良好だということですね。 一方で、こうした利益成長期待はすでに現在の投資口価格に織り込まれていると考えられます。したがって、重要な点は、現在の空室率の低さが今後も維持されるかどうかという点です。昨年末以来の円高・株安傾向により景気全般に陰りが出てきていますが、このまま景気が頭打ちになれば、空室率にも上昇圧力がかかり、賃料の上昇傾向も頭打ちとなってしまうでしょう。逆に、一時的な調整を経て景気が堅調さを取り戻せば、空室率の上昇は抑えられ、オフィスリートの利益成長期待がさらに高まる余地が生まれます。 オフィス賃料の動向を考えるうえでは、新築オフィスの供給予定にも目を向ける必要があります。現在の新築オフィス供給量はやや低水準で推移しており、これも賃料の上昇を支える要因となっていますが、2018~9年には供給量が大幅に上昇することが見込まれており、やや懸念材料となっています。 もっとも、景気が堅調さを維持していれば多少の供給圧力は乗り越えられると思われますので、やはり一番のポイントは今後の景気動向ということになるでしょう。 ここでは東京都心におけるオフィスの投資環境を見てきましたが、空室率の低下傾向は全国的に観測され、とくに名古屋、大阪も含めた三大都市圏や札幌、福岡などの主要地方都市でもオフィスの需給は好調です。ただし、賃料の上昇力ではやはり東京、とくに東京都心部が顕著で、それ以外の地域では大きく賃料が上昇する傾向は限られています。