中国の鉄道車両メーカー、スパイ懸念や納入遅れで破談相次ぐ 日本に競り勝ったインドネシア高速鉄道は〝金食い虫〟に『鉄道なにコレ!?』【第64回】
中国中車は、MBTAの地下鉄車両の組み立てでも手こずっている。受注した404両は2023年9月までに引き渡しを完了予定だった。しかし、24年初めの時点で導入されたボストン地下鉄用車両は120両にとどまり、受注車両数の3分の1未満にとどまる。 中国中車からの受領が大幅に遅れていることに焦燥感を募らせたMBTAは2024年4月、このままでは納入完了は29年になると試算。27年末までに納入が完了させることを条件に中国中車に対して1億4800万ドル(1ドル=157円で約232億円)を追加支給する羽目になった。 ▽ブルガリアの入札も断念 一方、欧州連合(EU)欧州委員会は2024年3月26日、ブルガリア政府による長距離列車用の車両45両と15年間に及ぶ保守管理に関する公共調達の入札から中国中車の子会社が撤退したと発表した。 引き金となったのは、EUが2023年7月に施行した域外国の補助金に関する規制(FSR)だ。欧州委員会は24年2月、中国が国有企業である中国中車に支給している補助金が公正な公共調達を阻害する恐れがあるとして調査を始めていた。
FSRは、EU域外の少なくとも1カ国から過去3年間に400万ユーロ(1ユーロ=170円で6億8千万円)以上の補助金を受けた企業を対象とし、EU域内での契約予定額が2億5千万ユーロ(同425億円)を超える大規模公共調達の入札に参加する場合には通知することを義務づけた。 FSRを設けた狙いは、補助金を受けた域外企業が発注先を決める入札で不当に安い金額を提示し、域内企業が不利益を被るのを防ぐことだった。 ブルガリアの入札は6億1千万ユーロ(同約1040億円)程度相当だと見込まれていたが「欧州委員会は中国中車が極端な安値を提示し、(スペインの車両メーカーの)CAFなどの域内企業を打ち負かす事態を回避したかった」(事情通)とされる。 FSRは補助金を受けた域外企業が公正な競争をゆがめると欧州委員会が判断した場合、契約の締結を禁止することができる。EUのティエリ・ブルトン欧州委員(域内市場担当)は「私たちの単一市場は真に競争力があり、公正な企業だけに開放されている」と訴えており、欧州委員会の調査を受けた中国中車は受注が難しいと判断して撤退したようだ。