中国の鉄道車両メーカー、スパイ懸念や納入遅れで破談相次ぐ 日本に競り勝ったインドネシア高速鉄道は〝金食い虫〟に『鉄道なにコレ!?』【第64回】
▽アメリカは〝スパイ電車〟懸念で事実上排除 中国中車が「熱心に獲得を狙っていた」(関係筋)のが、ワシントン首都圏交通局地下鉄の次世代車両「8000系」だ。ワシントン地下鉄はアメリカ政府関係者らの利用が多い。このため中国中車が受注すれば「〝スパイ電車〟を通じて機密情報が中国に流出しかねない」(政府関係者)との懸念が強まり、法律改正によって事実上排除した。 中国は2017年に制定した国家情報法の第7条で「いかなる組織および個人も法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない」と定めている。このため、中国中車が自社製車両でスパイ活動を繰り広げ、中国当局に密告して「国家の情報活動に協力」することは中国の法律で義務づけられているのだ。 危機感を強めた連邦議会の上下両院は国防予算を決めるための国防権限法の改正案を可決し、ワシントン交通局が中国中車製の車両を事実上購入できないようにした。当時大統領だったドナルド・トランプ氏が法案に署名し、2019年12月に成立した。
マーク・ウォーナー上院議員(民主党)は声明で「連邦議会はこの問題を深刻に受け止め、行動を起こした」とし、「特にこれらの車両(8000系)がわが国の首都で使われることになるからだ」と訴えた。 ▽日立に白羽の矢 8000系を256両製造するメーカーを決める入札で白羽の矢が立ったのは、アメリカの同盟国である日本に本拠を置く日立製作所グループだった。近郊のメリーランド州に設けた工場で量産し、2025~26年の冬に納入を始める見通しだ。追加のオプション契約が全て行使されれば計800両を納入することになり、その場合の受注額は22億ドル(1ドル=157円で約3450億円)に達する。 ワシントン地下鉄では川崎重工業グループが製造した「7000系」が主力車両となっており、8000系の納入開始後は日系メーカーの存在感が一段と高まる。 8000系の実物大模型が2024年3月20日~4月3日にワシントン中心部で無料公開された。日本の山田重夫駐アメリカ大使は3月19日、公開に先駆けて開かれた記念式典で8000系が「日米連携の一つの象徴になる」と期待を込めた。