分かりにくい大変更 ホンダ「N-ONE」が車高を65ミリ下げた理由
マイナス「55ミリ」をどう実現したか
サスペンションで下げた部分は後述するが、ボディで55ミリ落とすには、ざっくり言って二つのアプローチがある。ルーフを支える柱(ピラー)を切り縮めて「だるま落とし」の様にルーフを下げる方法。もうひとつは、一番上のだるまを小さくする方法だ。 ピラーを切り縮める方法を「チョップトップ」と言うが、これをやろうとするとコストが大きく増大する。全部のガラスを作り直し、ドアや窓枠、そこにつかわれているパッキン(シールやランチャンネル)やガーニッシュ(樹脂の飾りパーツ)を全部変えなくてはならないのだ。 しかも最近のピラーは特別な鉄板(高張力鋼板)を使って綿密に強度設計されているので、その基礎設計がやり直しになる。それはもうクルマの作り直しに足を踏み込む話だ。 となれば、ルーフパネルの厚みを削ったとしか考えられない。ホンダの広報に電話して確かめたところ、果たしてそれが正解だった。細かいところでは後ろ上がりのルーフの後端に付いていたアンテナベースを、より影響の低いフロントに移設したり、スポイラーの形状見直しなどもしているが、それはメインではない。ルーフパネルを、よりフラットな専用の形状に改めることでマイナス55ミリを実現しているのだ。方法は分かった。ではその理由だ。
「高めの車高」は失敗だった?
N-ONEの販売成績は、コンスタントに車名別のベスト15には入っているものの、確かにあまり芳しいとは言えない。例えば5月の軽自動車販売台数トップはホンダN-BOXの1万397台。2位は日産デイズで9453台。10位のN-WGNまでが5000台越えで、N-ONEは14位の1323台だ。 軽自動車の車高クラスリストという表を作成してみたのでご覧いただきたい。この中で左端にあるのが車高の種別だ。現在の軽自動車は原則的に3つの車高クラスに分かれている。スズキで言えば、低い方から、アルト、ワゴンR、スペーシアだ。基本シャシーを流用しながらこの3種の車高モデルを作り出すことになっている。 右端の販売台数を見ると、ホンダは車高の「高いクラス」ではN-BOXで圧勝している。車高「中」ではスズキ、ダイハツに先行されているが、まあ食いついて行っていることが分かる。 問題は車高「低」のクラスだ。ここはダブルスコアどころではない惨敗。目も当てられないことになっている。N-ONEはホンダにとってこのクラス唯一のタマだ。それでは困る。なぜそんなことになったかは、クラス内での車高を比較してもらえばわかるだろう。ホンダは車高低クラスで、競合を出し抜く奇策「飛び抜けて高いルーフによる広々とした室内」を仕掛け、外したのだ。そういう作戦を取った背景には「もっと広くならないのか」というマーケットの声が大きかったとホンダは素直に認めている。 実際、1610ミリのN-ONEは車高だけ抜き出してみれば、一つ上に入れるべき高さである。ムーブとさほど変わらない。しかしそのクラスには1655ミリのN-WGNが配備済みだ。常識的に考えてN-ONEの守備範囲は車高「低」クラスなのは明らかだ。 奇策の失敗そのものは一つの仮説の検証であり、試してみて「違う」ということが分かればそれでいい話だ。結果が出たトライにいつまでもしがみつかず、低いルーフのモデルに転進する。こういう場面では、ホンダらしい華麗な前言撤回が有効に生きてくる。