分かりにくい大変更 ホンダ「N-ONE」が車高を65ミリ下げた理由
スポーティーさでクラス内競争に挑む
ホンダの広報に筆者が尋ねたのは「立体駐車場に入らない」というクレームが営業から頻繁に上がってくるのかという点だった。要するに、車高「低」クラスでの惨敗原因は立駐なのかということが聞きたいわけだ。それに対するホンダの回答を要約すると、以下の様な話になる。 確かに立体駐車場で困るという声があるのは確かだが、実はそんなに多くはない。むしろN-ONEにはスポーティーな方向性での期待が高いことが様々な声から分かっていた。だからこその「低」車高モデルのリリースであり、それはN-ONEが本来持っている可能性を強化するという戦略である。 そのためにも今回は「Modulo X」を同時にリリースした。こちらはサスペンションでのダウンをマイナス20ミリにして、トータルで75ミリのダウンに成功している。 「Modulo」とはホンダ純正のアクセサリーブランドで、ホンダ自身は“Honda車の開発時と同じ、極めて厳格な基準をクリアしたものだけが、その名を冠することを許されます”と説明する。筆者が耳にする評価も上々で、むしろ最初からこっちのパーツを付けてくれという声も聞く。
実際、車高のダウンも世間で思うほど簡単な話ではない。N-ONEのリアサスペンションは、近年の小型車で一般的なカップルドビーム方式だ。これは踏切の遮断機のような腕がクルマの前方を軸にして取り付けられている。つまり前方固定軸で後ろが上下する。これだけだとコーナーで横から力が加わった時に竿がたわんでしまうので、左右一対の遮断機の竿の途中を梁(はり)で繋いで剛性を確保している。 竿部分の剛性を上げても、コーナリング時に横から力が加わると、一対の遮断機が根元から一緒にねじられるため、タイヤはトーアウトになる。それではオーバーステアになってしまって市販車としては非常に都合が悪いので、遮断機の揺動軸を斜めにして、サスがストロークするとトーインして、ねじれ分を打ち消す様に設計してある。 この仕組みについて何も考えずに車高を落とすと、普段からストロークしている(沈んでいる)状態になるので、必要のない時にもタイヤがトーインしてしまう。そんなことになっては困るので、慎重に調整をしながら車高を落とす必要があるのだ。それがホンダ自身による10ミリの意味だし、Moduloで多少の部品交換を行っても20ミリという数字に現れているわけだ。 ホンダはもう一度、車高「低」クラスで、アルトやミラ・イースに戦いを挑もうとしている。キーワードは「スポーティー」だ。重量が変わらずとも、車高が落ちればロールが少なくなり、サスペンションの設計はラクになる。そういうリソースをどの様に使ってスポーティーさを実現するつもりなのかはとても興味深い。アルトとミラ・イースのモデルチェンジによる軽量化で置いていかれた重すぎる車両重量もなんとかしたいところだが、少なくとも筆者は、この「N-ONE LOWDOWN」と「N-ONE LOWDOWN Modulo X」に乗ってみたくなった。 (池田直渡・モータージャーナル)