なぜ、同じ漢方薬を飲んでも「効く人」「効かない人」がいるのか…最新研究で見えてきた、驚きの「理由」
腸内細菌を調べれば「漢方薬の効果」を予測できる?
さらに、筆者(山本)が最も興味を持ったのが、「体質」と「腸内細菌」との関係です。 東洋医学の診断では、患者の状態について、いわゆる証(しょう)に基づいて漢方薬が選択されます。証を簡単に説明すると、「その人の状態(体質や体力、症状の現れ方などの個人差)をあらわすもの」とされ、患者の自覚症状や、体格などの要素から判別します。例えば、証の分け方のひとつに、虚(きょ)・実(じつ)があります。体力や抵抗力が充実している人を実証(じっしょう)、体力がなく弱々しい感じの人を虚証(きょしょう)と言います。 つまり、同じ病気でも証が異なれば、処方される漢方薬も異なりますし、自分が飲んでいる漢方薬が、同じ症状の他人には効かない可能性があるのです。もしかしたら、読者の皆さんの中にも、「他人に勧められた漢方薬を飲んでも効果が感じられなかった」という経験をされた方がいらっしゃるかもしれません。また、この証ですが、現代の医学では客観的な指標がないため、西洋医学では理解が難しく、漢方の専門家によっても診断が異なることも少なくないと言います。 少し前置きが長くなりましたが、今回の実験結果から、横山医師は、「腸内細菌は、体質を決める要素のひとつである可能性がある」と言及しています。先ほど触れたように腸内細菌叢のバランスが悪ければ、生薬からゲニピンなどの薬理成分をつくり出す能力が低い可能性があるからです。つまり、ゲニピンをつくる能力も、体質の構成要素のひとつであり、腸内細菌を調べることで漢方薬の効果を予測できる、すなわち「体質」を見極めることができる可能性があるというのです。 さらに、東洋医学の臨床現場では「漢方薬を飲み続けたら体質が変わった」というケースが少なくありませんが、この背景には、漢方薬が腸内細菌叢のバランスを変化させることで、「体質」が変化した可能性もあります。筆者(山本)は、今後の研究が進むことで、漢方薬の処方が現在よりもさらに精緻になるような指標づくりが可能になるのではないかと期待しています。 ---------- ----------
山本 高穂(NHK チーフ・ディレクター)/大野 智(島根大学医学部附属病院 臨床研究センター長・教授)