なぜ、同じ漢方薬を飲んでも「効く人」「効かない人」がいるのか…最新研究で見えてきた、驚きの「理由」
カギは「腸内細菌叢のバランス」
さて、ここからは、横山医師らが研究で明らかにした茵ちん蒿湯と腸内細菌の興味深い関係について見ていきます。 さまざまな薬理作用が確認されている茵ちん蒿湯ですが、横山医師が黄疸の患者に処方しても、症状が改善しない人が少なからずいたと言います。一体なぜなのか、その疑問を解決するカギとなったのが、腸内細菌です。 肝臓の機能を高める茵ちん蒿湯の成分として、サンシシに含まれるゲニポシドという物質がありますが、そのままの状態では薬理作用を発揮しません。実は、ゲニポシドは腸内細菌によって分解(代謝)され、糖とゲニピンという物質に変換されます。そして、ゲニピンになることで、初めて薬理作用を及ぼすことがわかっています。つまり腸内細菌が、生薬を原料にして薬理成分をつくり出しているわけです。 こうした糖とさまざまな種類の成分が結合した有機化合物は配糖体と呼ばれます。他にもカンゾウに含まれるグリチルリチン(薬理成分:グリチルリチン酸)やシャクヤクに含まれるペオニフロリン(同:ペオニメタボリン)など、生薬の多くは配糖体であることがわかっています。 さて、腸内細菌に関しては、人によって菌の種類のバランスが異なることが知られています。そこで、横山医師らは、茵ちん蒿湯の効果の違いが、腸内細菌叢のバランスの影響を受けているのではないかと考え、実験を行いました。 黄疸の患者の便を採取して茵ちん蒿湯を加え、ゲニピンをつくる量を調べたのです。その結果、予想通り腸内細菌叢のバランスが悪い人、いわゆる善玉菌と呼ばれる種類の菌が少ない人の便は、ゲニピンをつくる量が少なく、実際の治療でも黄疸の改善具合も良くありませんでした。腸内細菌叢のバランスが、茵ちん蒿湯の効果のカギを握っていたのです。 この結果を受け、横山医師は「腸内環境を整えることが漢方薬の効果を発揮することにつながる可能性がある」としています。それというのも、腸内細菌が分解(代謝)している生薬には、ゲニポシド以外にも、前述のカンゾウやシャクヤクをはじめ、ニンジン、サイコ、ダイオウなど、多くの漢方薬に含まれる重要な生薬があるからです。