平安ではない時代の到来が近づく…道長(柄本佑)の演説に大きな関心集まる【光る君へ】
吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。9月1日放送の第33回「式部誕生」では、まさに「平安」を謳歌している時代に、争いの世が刻一刻と近づいていることを意識させる事件が頻発。なかでも道長の「なぜ武力での解決を一切許さないか」という演説に、大きな関心が集まっていた。 【写真】持論を述べる隆家(竜星涼) ■ 平維衡の再任を阻もうとする道長だが…第33回あらすじ 藤原道長(柄本佑)は、一条天皇(塩野瑛久)の亡き皇后・藤原定子(高畑充希)が生んだ王子の後ろ盾として、定子の兄・藤原伊周(三浦翔平)が力をつけることを恐れていた。その頃道長は、伊勢守在任中に、同族の者と幾度も合戦を起こした平維衡の再任を阻もうと、天皇と衝突。武力による争いを決して認めない道長に対し、伊周の弟・隆家(竜星涼)は、朝廷も武力を持つ道を選ぶことが肝要かもしれないという持論を述べる。 いつの間にか維衡の再任が決まってしまうが、道長は天皇に、寺や神社が武力で土地を取り合っている現状と、国司たちもこれに続けば、血で血を洗う世になるという主張を述べ、早々に維衡を解任させることに成功した。それからほどなくして、興福寺別当・定澄(赤星昇一郎)が、大勢の僧侶を引き連れて上洛。自分たちのために陣定をおこなうよう道長に強訴し、それが叶わないのなら屋敷に火を付けると脅すのだった・・・。
道長の言葉を借りた、重要な平和維持のメッセージ?
前回の『どうする家康』、前々回の『鎌倉殿の13人』と、人間同士がいろんな理由で殺し合い、さらにその殺戮が次の争いを呼ぶ・・・という武士たちの負の連鎖を、2年連続でこれでもかと見せつけられた大河ファンたち。 しかし大きな戦のなかった平安中期が舞台の『光る君へ』では、そんな殺し合いは見ずに済むだろうと思っていたし、実際殺人の描写も初回以外はほぼ描かれなかった。しかしこの33回まで来て、実はそうした殺伐とした時代の萌芽は、まさにこの時代にあった・・・ということに、我々は改めて気付かされた。 最初に話題に上がった、平維衡という名前しか出てこない謎キャラ。彼が、ほぼ仕事してない右大臣・藤原顕光(宮川一朗太)に伊勢守に推され、道長が「同族と武力衝突したような奴にやらせたらダメ」とクレームを入れたものの、知らぬ間に就任が決定していた・・・というのは史実。 道長の治世のなかでは、非常に些末な事件のように思えるし、実際顕光も天皇も「それほど反対すること?」という反応。おそらくリアル藤原道長が反対したのも、ライバル的な立場の右大臣を牽制するのが主目的だったように思える。 ただこの柄本道長の場合は、「武力での解決を辞さない人間を国司にしたら、そこから世の中がほころびていく」ということを、その非凡な政治的センスで予見したのが、再任阻止の大きな理由という解釈に。 確かに日本だけでなく、世界の歴史を振り返っても、大きなクーデターや内乱の第一歩は、たった一件のお家騒動とか暴力事件が引き金になったという例は多いし、現代だっていつ起こってもおかしくないことなのだ。これは道長の言葉を借りて、作家・大石静やスタッフたちの投げかけた、重要な平和維持のメッセージと言えるのではないだろうか。 実際、維衡は武装を解かずに「伊勢平氏」の始祖となり、約150年後には彼の子孫・平清盛が朝廷を乗っ取るような形になってしまう。さらにその清盛を倒すために源頼朝が挙兵し、平家を滅亡させたあとに武家政権を築き上げたものの、跡目をめぐって多くの者が犠牲になるという、まさに「血で血を洗う世」が到来する。 この辺りの時代は、大河ドラマでは『平清盛』(2012年)、『義経』(2005年)、『鎌倉殿の13人』(2021年)で描かれてるので、機会があれば観てほしい(特に『鎌倉』は相当しんどくてオススメ)。