アジア杯で果たせなかった恩返しは最高の舞台で。西尾隆矢は仲間とともに“花の都”での戦いに向かう【パリ五輪の選ばれし18人】
悔やんでも悔やみ切れない行為
パリ五輪開幕まで約2週間となった。ここでは56年ぶりのメダル獲得を目ざすU-23日本代表の選ばれし18人を紹介。今回はDF西尾隆矢(セレッソ大阪)だ。 【PHOTO】悲願のメダル獲得へ!パリ五輪に挑むU-23日本代表18名とバックアップメンバー4人を一挙紹介! ――◆――◆―― 今から約2か月前。西尾はじくじたる想いでピッチを見つめていた。 今年4月中旬から5月初旬にかけて行なわれたU-23アジアカップ。パリ五輪のアジア最終予選を兼ねた重要なコンペディションで、U-23日本代表の副キャプテンを託された西尾は、中国とのグループステージ初戦にCBで先発出場を果たした。 しかし――。MF松木玖生(FC東京)のゴールで先制した矢先の17分、味方のCKでゴール前に上がっていた西尾は、自陣に戻る際に相手と接触してしまう。腕で相手を振り解いたように見えたため、VARの介入が決定。オンフィールドレビューで、改めて左肘で相手に報復したことが認められ、西尾は主審からレッドカードを提示されてピッチを去った。 以降は数的不利の状態で仲間たちが懸命に戦う姿をグラウンドの傍から見守ることに。1−0で勝利したとはいえ、チームメイトに迷惑をかけた自らの行為は悔やんでも悔やみ切れない。 特に西尾はチームの主軸を務めているだけではなく、ピッチ内外で大岩ジャパンのまとめ役も託されていた。2022年3月のチーム立ち上げ当初から継続して活動に参加し、U-23アジア杯でも副キャプテンを任されていた事実を考えても、絶対にあってはならない不必要なファウルだった。 翌日のトレーニングに姿を見せた西尾は気丈に振る舞っていたが、心の中にあったのは申し訳なさ。練習後の取材でも背番号3はこんな言葉を残していた。 「自分は本当にやってはいけない行動をしてしまった。それは事実ですし、僕は本当に反省の意味を込めて、仲間に謝罪をしました。ただただ本当に謝罪をして…。また一からサポートに回って、このチームの勝利を掴むために、少しでも何かできることがあればしたい。そこはみんなに伝えました」 しかし、下を向いているわけにもいかない。そんな時に助けになったのが、チームメイトの言葉だった。 「チームメイトも『全然問題ないよ』という感じで励ましてくれたので、本当にその言葉に救われた」 仲間の支えもあって気持ちを切り替え、出場停止が明ける準決勝までサポート役に徹した西尾。仲間と練習場で汗を流す一方で、ホテルではスタッフと一緒に練習着などの洗濯物を一緒に畳んだりしていたという。 後はピッチで恩を返すのみ。そう決意を固め、出場権が懸かる準決勝のイラク戦(2−0)はベンチから戦況を見守り、最終盤にピッチに送り込まれた。 本職ではない左SBで守備固めの役割を遂行し、仲間たちにとともに喜びを分かち合った。しかし、このわずかな出場時間が今大会最後の出番。決勝ではピッチに立てずに帰国の途に着いた。 アジア制覇、パリ五輪出場権獲得。ふたつの目標は果たせたとはいえ、西尾個人としては悔しさが残る。陰からチームメイトを支えたが、本当の意味で恩返しは果たせていないからだ。だからこそ、本大会は“選手”としてチームの勝利に貢献する場となる。 CBとして何ができるのか。持ち前のリーダーシップと空中戦の強さを発揮し、どんな状況下でもブレずに戦う。今まで積み重ねてきたことを信じ、あとは最高のパフォーマンスを発揮するだけだ。 「CBとしての能力が高い。僕も今までずっと代表でコンビを組んだりして、CBの中では同い年でもあるので、一緒に今までやってきたという特別な想いもある」(木村誠二) 仲間から一目置かれ、信頼が厚い男はパリに向かう。苦しいことも辛いこともあった。それでも、ここまで来られたのは仲間のおかげ。覚悟は決まった。日本のために戦い、最高の舞台で輝く。 取材・文●松尾祐希(サッカーライター)